第38話

あたしは考えるよりも先に部屋を出ていた。



なるべく音をたてないようにそっと家を出て、そのまままっすぐ大志の家へ向かう。



駐車場には車がないから、大志と数人のメンバーたち意外は家にいないようだ。



と、いうことは。



家族に話せないような話題も、今日なら気けれるかもしれないということだ。



あたしは思わず武者震いする。



悪いことをするって、こんな気分なんだ。



なんて思いながら、玄関に手をかける。



案の定、玄関のカギは開けっ放しだ。



メンバーが来た後、大志はいつもカギをかけ忘れるんだ。



そんな大志の癖を知っていたあたしは、そっとドアをあけて中へと入った。



不法侵入?



でも、こうでもしなきゃ大志の考えていることがわからない。



「おじゃまします」



と、小声で言って、そっと階段を上って行く、



途中でギッギッと鳴る床に、いちいちひやひやする。



なんとか2階へ上がりきったあたしは、大志の部屋の前でそっとしゃがみ込んだ。



ドアに耳を当てて、息を殺す。



部屋の中から、ボソボソと何か話し声が聞こえてくる。



でも、何を言っているのか、しっかり聞き取れない。



「もっと大きな声で話しなさいよ」



と、文句を言ってみたって相手には聞こえない。



でも、ところどころ『赤旗』という単語や『メンバーの1人が』という言葉が聞こえてきた。



やっぱり、赤旗についてなにか話をしているんだ。



あたしには言えない、なにかを……。



そう思うと更にその秘密を知りたくなって、あたしは一度体勢を変えるために少しだけドアから離れた。



すると次の瞬間、目の前のドアがいきなり開き、思わず悲鳴をあげて尻もちをついてしまった。



あたしの悲鳴に驚いて、ドアをあけた大志が目を丸くする。



「千沙、なんでお前ここにいるんだよ!?」



「あ、えっと……。大志、暇かなぁと思って、遊びにきた!!」



我ながら、苦しい言い訳だ。



でも、精一杯の笑顔をうかべて「えへへ」と、笑って見せた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る