第26話 目覚めろ、その魂

ホントは前回と同じ話にする予定でしたが文字数が6000超えたので分割しました。どうでもいいですね。


追記:一部改稿しました

………………………………………………………


……目を瞑るのはなんだか癪だな。と目を開く。

最後に見る景色が瞼の裏は嫌だ。

ふと、何の気なしに足元を見てみると、どこか見覚えのある額縁の欠片と、ほとんど吹き飛んでまともに見ることが困難な写真が見えた。


…見間違える訳が無い。これは紛れもなく父が写った写真だ。

ドクン、と限りなく振動が消え失せていた心臓が大きく波打つ。


父さんは写真が嫌いだった。故に奇跡的に現存している写真は2枚のみ。(会社の紹介写真も消えてしまった。)しかしその中の1枚は燃えて無くなってしまった。つまり、自分の家に置いてあった写真が父さんの写っている唯一の写真。父さんが確かにここに存在したという証明。

それが今、消えた。


「ああああああああぁぁぁ!!!」


バッと顔を上げ、拳を振り抜く。が、怪人の顔を拝む隙も無く躱され横腹に何やら硬い物質をめり込ませてくる。

勢い良く吹き飛ばされ、アスファルトの上をゴムまりの様に跳ねながら壁に衝突する。


『ニンゲン!』


恐らく様々な骨が折れているであろう身体を起こし、霞む目を凝らして凝視すると、ネコがこちら側に駆け寄ってきているのが分かる。


『何をしているのにゃ!生身のニンゲン族がアイツに勝てる訳が…』


「そんなの…やって見なきゃ…分からない…」


そう言葉を遮って答えるとネコはムムムと唸り、トンデモ話をまくし立てる。


『1つだけ、1つだけあるにゃ。アイツに勝つ方法。それは、ボクの力をニンゲンに譲渡して魔力器官を生成させて真名を制定してうんぬんかんうんぬんかん』


「…ごめん、簡潔に。」


『つまり、魔法少女に変身することにゃ。』


思わずブフォッ、と吹き出す。なんか一緒に血も出た気がする。


「僕が魔法少女に?何を言っているんだ、魔法少女になれるのは産まれた瞬間から魔力を持っている人だけ…と言うか、そもそも僕は男だよ!」


『なにも女性しかなれないな訳じゃ無いにゃ。男性がなる確率がとてつもなく低いだけにゃ。例えるなら円周率の最後の数字を求めるくらい。』


「それを不可能と呼ぶのでは…」


『それは…うん、確かにそうにゃ。それに、なれなかった場合は最悪苦しんだ挙句死ぬ事になるし、なれたとしても大きい副作用が出るにゃ。忘れてくれにゃ。』


案外大きいデメリットだ。このまま諦めて死んだ方が妥当だな。

頭上では我々の恐怖感を煽るように、もしくは嘲笑う様に鋭い風を散らしながら怪人は飛び回っている。と思う。なにぶん目に見えないのだ。ソニックブームは出ないのだろうか。

ともかくあんなのに勝てる訳が無い。特に苦しむことも無く一瞬で死んでしまうのが妥当だ。


…うん、妥当だ。

……諦める、かぁ。


脳裏に浮かぶのは昔、とある事を諦めようとしていた時に父さんが僕に言った事。


『諦める、と言うのは確かに人生において極めて重要な選択の1つだ…。だが、父さんは諦めなかったから"今"を掴んでいる。

…お前がするその選択、諦めなかった世界線の俺の息子はどんな姿をしているんだろうな。』


そう言ってニカッと笑った父さんの姿。


…そうだった。

見てますか、父さん。僕はもう少し足掻いてみようと思います。


ボロボロな身体に鞭打ってよろよろと立ち上がる。

きっと今の僕の姿は酷く情けないのだろう。だが、間違っていない。そう思う。


「ネコ、やろう。」


『…え?』


「やってみよう、変身。」


『えぇ?いやでも仮に出来たとして強力な副作用が…』


「関係無いね。やらなきゃ死ぬんだ、せいぜい足掻いてみるさ。」


『…本気、なんだにゃ?』


「ああ。」


『…じゃあ、これ。』


そう言ってネコはどこから出したのか、奇天烈な形をした剣のキーホルダーを僕に差し出した。

これが魔法少女に変身するアイテム、ということか。


「君、名前は?」


『…ナノ。』


「ナノか…僕は盟介。灰島盟介だ。」


そう言ってキーホルダーを受け取る。


『そのキーホルダーは、魔法少女の魔装を出す魔術装置にゃ。』


「なるほど、それでどうやって使うんだい?」


『…ボクと<契約>して、体内に無理矢理魔力器官を生成するにゃ。』


契約、ね。僕にとってはあまり良い印象の無いものだ。


「契約って、どうするのさ。互いの手を切って血啜るの?」


仁義なき戦いでそんな事やってたし。


『そんな物騒な事はしないにゃ。ほら、これにゃ。』


そう言ってネコ…改めナノは淡く輝いた右手を突き出した。


『この手を握ったら、契約成立にゃ。』


そんな簡単なのか。少し拍子抜けだ。


『さぁ、ハイジマ。今こそボクと契約して魔法少女となり、あの怪人に鉄槌を喰らわしてやるのにゃ!』


あぁ、やってやるさ。たとえこの選択が地獄への片道切符だったとしても。


「やるぞ、ナノ。」


ナノの手を握り返す。その瞬間、自身の右手から何かが流れ込んでくるのを感じる。

あとなんだか身体が光ってきた。


微風だが、風が顔に触れる。何かヤバいと感じたのだろうか、怪人がこちらに向かってくるのが分かる。

先程までは一切分からなかった軌道が手に取るように分かる。


一撃で終わらせる。いつしか身体全体を包み込む程に大きくなっていた光の中で、そんな事を考えていた。



そして、次の瞬間。

正確には光が収まった時。


そこには右手拳で怪人を真正面から貫いている灰島の姿があった。


勢いよく吹き出す青い鮮血。当然灰島は思いっきり被ってしまう。


「うわ、最悪!きったねーなぁ、おい。」


ズボッと怪人に刺していた手を抜き、顔に付着した血を拭って、血を含んでしまった前髪を掻き上げる。


「ったく。やぁっとそのご尊顔が拝めたなぁ。」


灰島の右手で貫かれた高速で飛び回る怪人の正体は、なんとデカい赤い鳥だった。


「たく、鳥の癖してイキっちゃってさぁ?このタコが!……あぁでも鳥なのか。

ああちなみにナノ、一つ教えてやる。円周率の最後の数字は3だ。」


自慢のくちばしを砕かれ、見るも無惨な鳥に向かってそう吐き捨てる灰島。

そんな灰島を呆然と見るナノ。


『(まだ変身していないのにこの力…。どうなっているのにゃ?いやその前に、この豹変ぶりは一体……? そういえば聞いたことが…。これは副作用の一種の……)』


『…性格反転!』


どうやら灰島は副作用として、元の性格のオドオドとしたものとは真反対のオラついた性格になってしまったようだ。


「うっし、じゃあナノ!さっさと立ち去るぞ!」


『え?』


「もうすぐ魔法少女が来る!これで見つかったら面倒だ!」


『わ、分かったにゃ!』


と、一緒に振り返った瞬間。

フォンと黒く丸い何かが空に出現した。


「なんだ……?これ。」


次に、尻ポケットから再び音が鳴る。生きとったんかいワレェ!

しかし、聞いたことが無い警報だ。なんなのか確認するため画面がバキバキになってしまったスマホを見ると、


『非常事態:警戒レベル最大』


……?警戒レベル最大?何かヤバいものでもあるのか?


ふと空を見上げると、


「……あら。」


ひい、ふう、みぃ……数え切れない程の黒い球体が空に浮かんでいた。


『…ワープゲートにゃ。』


ワープゲート?そりゃいったいどういう……


「わーお。」


黒い球体……ワープゲートから、先程と同じ赤い鳥が出てきた。

何羽だ?もう数えんのも面倒だ。ナルトの影分身見たシカマルってこんな気分だったのか。


『これは……絶対生身じゃ無理にゃ。ハイジマ!変身にゃ!』


「変身?あぁ、このキーホルダーで。」


へーんしん!しゃきーん!




……おいちょっとカメラ止めろ。変身しねぇんだけど。


『初変身は言霊を伴ってするのにゃ。それをしないとアイテムと同期出来にゃいのにゃ。』


ほーん。Bluetooth接続する時みたいなもんか。

で?その言霊とやらは何を言えば良いんですかい?


『自ずと頭に浮かび上がるはずにゃ。』


そんなもんか。

剣のキーホルダーを前に突き出す。

おぉ、本当だ。言うことが浮かんでくる。


「主よ、諦め給え。今より行う我の愚行を。主よ、守り給え。今より行う我の行動を。そして主よ、信じ給え。今より振るう、"俺"の正義を。」


剣が輝き始める。


「我は月を冠する者。銀河の力を秘めし者。何にも囚われず、我が道を歩む者。」


剣が激しい光を放ち、膨れ上がるように巨大化する。

俺はその剣をしっかりと握り、水平に振り抜く。


「……刮目せよ、我が名は"ルナ"。<幻想>を司る……魔法少女である。」









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