世界は虹に支配されている
ウタテ ツムリ
序章 世界は虹に支配されている
かつて世界は七つの色の名を冠した国々に分かれていたという。人々はそれをさしてこう言った。
我らが世界は虹に支配されている、と。
そして、かつての名残をわずかに伝える言い伝えの一つはこう語る。
この虹の世界を統一し、世界を治める者は伝説の白を手にしたものである、と。
白が何であったのか。この言い伝えの起源などはどこにあるのか。多くの学者が謎を解こうと挑み、しかし未だその真相は明らかになっていない。
けれど、僕は思うのだ。もう虹に支配されていないこの世界で、この言い伝えの真意を探ることなどできはしないのではないかと。
七虹暦(しちこうれき)七七七年。一人の英雄が誕生した。その所業の何をさして英雄と呼ぶのか。誰一人として知らずとも、誰もが自然と彼を英雄と呼んだと記録されている。
白の名を冠した英雄はその名も、容姿も、あらゆる情報が不明だった。唯一人々に伝わり、後世にまで残っているのは、彼が風信子石(ひやしんんすせき)でできた長剣を帯刀していたということだけ。
また同時に、この時代には白の英雄以外にも大きな力を持った七人の傑物がいたという記録もある。
それぞれの特色を強く表すように、記録には名前ではなく象徴となる生き物や職業の名前だけが記されていた。
まるで、人間ではない何かの記録であるかのような書き方に、なぜだか胸がざわついたことをよく覚えている。
この年、緊張状態が続きながらも何とか平穏を保っていた赤の国と青の国による、大規模な武力の衝突を境に世界は一気に戦乱の時代へとかけていった。
誰もが忘れてしまった過去。動乱の時代について僕は知らなければならないと考えている。これは義務感のようなものであり、同時に僕らの過ごす今を見つめることに役立つのではないかという期待も込められている。
だからどうか、この本を手に取った君にお願いしたい。僕の拙い文ではうまく伝わらないこともあるかもしれない。それでもどうか、いつかこの空の下にいた誰かの生きざまに思いをはせてみて欲しい。
前置きが長くなってしまった。それではいい加減本題を始めよう。
これはかつて、世界が虹に支配され、交われなかった時代の記録の物語だ。
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