ET・T Rev
ゆきお たがしら
えっ、ロボット?
ET-Tのせいで顔が真っ赤になってしまった私なのだが、大家さん夫婦には失礼がないよう頭を下げると、あとは一目散~脱兎のごとく、スーパーを目差した。とはいえ、腹の虫がどうにも治まらない・・・。
気持ちを紛らわすために早足で歩くが、口をついて出るのは『ET-Tめ、とんでもない奴だ!』ということで、ブツブツ言い続けていると、ふと・・・、これから先のことが頭をよぎる。そうなのだ、親からの仕送りがくる間、何とか特価品で食いつながなくてはならなかったのである。
だが、ありがたいことに延々と続くデフレ~政府はデフレ脱却にあの手この手で悪戦苦闘しているみたいなのだが、ここ何年も~四年、五年はいうに及ばず四分の一世紀以上経ってもデフレは収まらず、そのためかどうかは分からなかったが、閣僚や議員の暴言、失言、失態が相次いでいた。しかしそれが批判の的になると、当の議員はうそぶき、居座り、撤回とお詫びで済ませてしまい、自らを省みることなく平然としていたのだ。
とはいえ、そのような議員は限られているのだろうが、今も昔も家系~祖父がなになに、父親がなになにだったと家柄からいかにも政治家として有能、そうでなければ某超一流大学出なのでこの人なら間違いない、もしくは名のあるタレントを担ぎ出して人びとの歓心を買い、集票につなげようとしていた。
さらに選挙となるとほとんどの候補者が平気で空手形・・・、受けをねらってと言うか実現しそうもない言葉を乱発し、当選すれば当選したで主体性がないというか事なかれ主義というか、それとも洗脳? 主流に迎合して賛成、賛成の連呼の声を上げ、あげくの果ては有権者から選ばれたことなど頭から消え去り、いつの間にか上から目線になっているのである。
と、政治家をこき下ろすのは簡単だが、有権者たる国民も・・・、政治に関心がないということは、ある意味無責任? いえいえ、それどころか脳天気か他人事で、真剣に考えることもせず、他にこれといった候補者がいない、政党がないというだけで、キャッチフレーズにつられたように投票してしまう。
そんなこんなで当選した新参の議員はいざ外交となると押し黙り、古参議員は内向き精神を最大限に発揮して何を言っても~国内ではどうのこうのと遠吠えのように言っているのだが、問題解決につながるようなことはまずなかったのである。それは選んだ国民が悪く、結果、後の祭りでしかないのだが、ため息しかでないというのが本当のところではないだろうか。
さらに上から目線になれてしまった議員たちは事ある毎に金をちらつかせ、すべてはお前さんたちのためにしてやっているんだというポーズをとるが、日の当たらない~置き去りにした人たちを冷遇し顧みることはなかった。媚びとばらまきの中で、自分たちに都合のよいよう、かつ根本の問題からは目をそらして、後は野となれ山となれなのだ。言葉と真摯な姿勢が政治家の命なのに、これではロボットより劣るのではないか・・・。
なんてえらそうに言ったが、所詮、素人の私なで本当のところよく分からないのである。ただ一つ~大昔の政党のように、様々な見識を持った議員が自分の考えに従って派閥や会派をつくり、政治のプロとして喧々囂々と意見を言い合い、他の派閥や他党に配慮しながら国を導く~それがいいか悪いかは別としても、活力と知恵を生み出すにはこの方法しかないのではないか。
今日では与党の圧勝につぐ圧勝で与党内は癒着し、野党は悲しいかな少数民族状態で政府に苦言を呈しても見向きもされず、政府は自分たちの保身のために何か都合の悪いことがあれば有識者~高度な知識はあって現場を知らず、しかも政治的志のない人たちからお体裁ばかりに意見を聞いてお茶を濁しているのだから、なるべくしてなったとはこういう事を言うのだろう。まあ、世の中とはこんなもので、金なし要領なしの人間は人生で冷や飯を食うのがオチなのである。
なんてゴチャゴチャ言っても、私のような低所得者~社会の底辺をウロウロしている者にとっては、超ロングなデフレは本当にありがたかった。ところが! である、どうしたことか政府はここ最近、苦し紛れのデフレ脱却? それとも利害が一致した結果なのだろうか! 企業と結託したとしか思えないほど軒並み国民生活に直結するものの値段を上げていたのだ。
私の大好きなコロッケは二週間前には一個四十円でだったのに、なんと四十五円に跳ね上がっていた。『これは貧乏人に、死ねということか!』値段を前に憤っていると、従業員さんがやって来て、タイムセール? それとも処分? シールをはり替え三十円にしていた。
私はそれを見て悲しいかな『やったあ!』と思わずヤッターマンに変身し、四個買えば、即一個十五円の儲け! だからどうしたっていう話になるのだが、四つ買えば値上げ前の通常価額で三つ買ったのと同じ? どうにも腹が減ってまともな計算もできずお恥ずかしいかぎりだ。ついでに財布の中身と相談すると、まだまだ買えることに気付いて清水の舞台から飛び降りる・・・、当事者にしか分からない思いだが、コッペパンと特売の野菜ジュースを購入していた。
気持ちだけはルンルンになった私だが、再度、真剣に考えると、明日からどうする? どれだけ倹約すれば・・・。店を出て命の存亡の危機と、ああでもないこうでもないと歩きながら考えていると、突然、目の前に・・・、ET-Tを購入した販売店の前に来ていたのである。
『ああ、久しぶりだなあ。それじゃあ、例の若者の顔でも見て帰るか』、勢いそのままに店内を覗くが若者の姿はなく、彼の席には若い女性が座っていた。『う、うん? 転勤・・・』いらぬお世話なのだろうが興味津々で覗いていると、視線に気がついたのか、女性が席を立ち颯爽と~素敵な足取りと言ったほうがよいのだろうか、コツコツとヒールを鳴らしながら店からでてきていた。
ところが私は・・・。やましいことは何もしていないのだが、いつもの癖で~なんとも意気地のない私であるが、『えっ、何かまずいことでもした?』、あまりに軽やかで素早い動きに圧倒されると、とっさに向きを変えてアパートに戻ろうとしたのだ。しかし、時すでに遅しで、
「何か、御用ですか?」
声をかけられていた。
「あっ、いえ・・・。は、はい、こちらでET-T・・・、ロボットを購入した者なのですが、その時いた・・・、名前は忘れてしまったのですが若い男性・・・、ハーフっぽい若い男の子はいますか?」
しどろもどろの私の言葉にも~絶対に私は政治家にはなれない! 動揺している自分がいやになるが、若い女性は嫌がることも窺うようなこともなく笑みを浮かべると、
「ああ、彼ですか! 彼は検査でドックに入っていて、しばらくお休です。」
と言っていたのである。
『検査? ドック?』、私は検診も行くことがなかったので縁のない言葉~理由は簡単、お金がないからだが、それはともかく、ここは常識的に、
「どこか、お悪いのですか?」
と聞いていた。すると、
「いえ、定期検査でロボットドックに入っています。」
「ロ、ロボット! 人間ドックじゃなくて、ロボットドック?」
これはもう間抜け以外の、何ものでもない。
「はい、彼はロボットですから。」
『し、信じられない! どこから見ても人間・・・。あんな好青年が、なんとロボット? そ、それじゃあET-Tは・・・、ただのポンコツ!』、アッハッハ、なんかわだかまっていた気持ちがスッと消えるが、冗談はともかく、あれだけ見事というか精緻に造られては、誰が人間で誰がロボットなのか、判別できないのでは・・・。
不気味というか想像をはるかにこえた世の中に、私は背筋が寒くなり怖いものを覚えてしまう。そして私が知りえる世間~狭い範囲でしかないが、飛びぬけて美しすぎる彼女は私の目をのぞき込むと、
「私も疑っていませんか? 残念ながら私は正真正銘の人間なので、安心していただいて大丈夫ですよ。」
見抜いたように・・・、しかもさわやか~アッケラカンと言っていた。
だが言われても動揺のおさまらない私は、
「はあ、そ、そうですか。」
口にするのが精一杯なのだが、彼女は続けて、
「人間のような・・・、顔を似せるというかコピーしたように鼻や口や耳を備えているのは、当社の受付ロボットだけです。弊社が販売している他のロボットや他社製のロボットは、需要やコストの面からもそのように造られておらず、人に紛れてということはけっしてありません。」
きっぱりと口にしていた。しかし・・・、
「そ、そうなんですか・・・。」
元来が臆病な私は、いくら言われてもにわかには信じられず、彼女のあまりの美しさに・・・、人為的なものを感じていたのである。
TO be continued
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