【異世界軸】時の気まぐれでも世界は動いている

吉枡ニンジン

第1話 導入

 俺は井滝永登。俺はいつものように原付で変わらない日常を走っていた。何したところで変わらない日々の中を生きる悲壮感、鬱憤、下らないものばかりが俺の中に溜まっていき、つい世間の道徳に外れることをやらかしてしまう。自分が制御できない高揚感が中から溢れてきて頭の中では何やってんだとサイレンが響いているのに止めることも止める手もなく仲間内に馬鹿をし続けていた。そんなことをしても何にもならないことは分かっていた。だからひとしきりの後に残る脱力感や虚しさに苛まれた。

 ビルの隙間から見える太陽はいつも、いつも通り俺を照らし長く暗く伸びた陰はいつまでも俺を見ていた。くだらない日常は死ぬまで続く、これが報いだというように。


 いつも自分の不幸を呪いながら生き、自分がこの世で1番不幸だと思うのは自分だけで、今日もどこかの誰かは自殺する。飛び込み、首吊り、1人で死のうが巻き込んで死のうが死ねば誰かの世話になる。迷惑をかけずに死ぬことなど不可能に近い。勿論天熟を全うし、安楽死したとしてもだ。

 死はいつも側にいる。生あるところに死は存在し続ける。

 そして今日も俺がいた交差点でトラックが歩行者に衝突し、交通事故が起きた。それなりのスピードで走行していた車に跳ね飛ばされた女は俺の目の前に落ちた。目を見開き頭から身体から、至る所から血を流していた。死んでいるかと思ったが、口が動いている。何を言っているかまでは分からない。痙攣し、もう生きている人間には見えない。死を間近に見ている。

 固まる人間に、撮影する人間、通報する人間、叫ぶ人間。誰もが色々な心を携え、行動に移す。勇敢な者や臆病な者、卑劣な者、無関心な者たちが今日も生き、変わらず明日を過ごすかもしれない。けど俺は目の前の女をただ見続ける。俺に向けられているようなこの目からいつまでも目が離せずにいる。そう、なんの意味もない目が悪意の塊のように思えていた。

 そして信号は赤から青に変わり、俺の視界は暗転した。

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