零の芽

がみ

プロローグ

 夜になると、苦痛から解放される。


 だが、それも時間の問題だ。


 また明日が近付いてくる。毎日同じことの繰り返し。


 どうしてこうなった? 幸せだったはずなのに・・・。



 少女は自室の勉強机で日記帳にその日の出来事を書き並べる。


 室内は電気がついおらず、勉強机についているスタンドだけが明るい光を発している。


 四月二六日。今日も変わらず誰とも話すことはなかった。


 あのふたりは私と仲が良いふりをしていつも傷つける。授業のノートを破かれ、教科書をゴミ箱に捨てられたせいで授業をまともに受けることもできない。


 周りの人たちはきっと私が苦しんでいることに気づいていない。いや、私の状況になど興味を持っていない。


 それぞれが自らのことで精一杯なのだ。


 下手に関わって、飛び火することを恐れている。



 「もう嫌だ・・・」



 日記の白い紙に一粒の雫が落ちる。


 ひとつ、ふたつ、それは次第に紙に染みの数を増やしていく。


 誰も助けてくれない。


 親に心配をかけたくないから、学校は楽しいと嘘をついている。


 中学生の頃は友達がいて、毎日学校に通うことが心から楽しいと思えた。


 高校も入学してから一年間はそれなりに楽しかった。


 だが、二年生になってすべてが狂った。


 信頼していた人は裏切り、虐めを受けるようになり、誰も助けの声を受け入れてくれない。


 こんな苦しい思いをするくらいなら、生きている意味なんてない。


 少女は勉強机のペン立てに入っているハサミを手に取った。


 本当はカッターが良かったが、普段使用することのないものは部屋に置いていない。


 少女はハサミを目一杯に開いて、手首に刃を押しつけてみる。


 このまま力を入れて引いてしまえば、楽になれるだろうか。


 いっそのこと、自らの命を捨ててしまえば解放されると思っている心とは裏腹に、手に力が入らない。


 本能は死を回避しようとしている。


 「なんで・・・」


 少女の目から再び涙がこぼれ落ちた。


 ハサミを床に投げ捨て、両腕を枕にして机に顔を伏せる。


 でも、ひとつだけ力がなくても実行する方法がある。


 きっとそれは、私を追い詰めた人間に復讐ができる方法になる。


 少女は決意した。

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