第3話

「そういえば光治、あの女とはどうなったっぺ?」

「破局!女遊びは派手な方がいいっぺ!あっはっは!」

食事中の話題がこれだと、僕の出る幕がない。

「それにほら、兄貴も言ってたっぺよ。嫁さん貰う前に遊んどけってな!」

兄貴、それは僕のお父さんだという。

二人ともいつもその話題になると目を逸らす。どんな人物なのか、正確にはわからない。

しかし、聞く限りだと大層見栄っ張りで豪快だったらしい。僕と正反対だ。


飾られている遺影は僕と瓜二つ。間違いなく、父親なのだろう。

それにしても、あまりにも似過ぎているので不気味だ。

母親の遺伝子は何処へいったのだろう。もう少し、母親らしい痕跡があっても良いと思うのだが。


そもそも我が家では、母親の話題が出たことがない。

どんな人物なのか、知ろうとするのも諦めてしまった。

その行為が、酷く無駄に思えたから。


会話で盛り上がる二人を見ながら、黙々とご飯を食べ進めていく。

納豆に、焼き魚に、白米。日本人らしいし栄養価も高い。味だって美味しい。


けれど、どこか空虚だ。

それを何という言葉で表すのかはわからないけれど、虚しい気持ちでいっぱいだ。


それでも「ごちそうさまでした」と、カシマサマに礼をして席を立つ。


カシマサマ。実体のない存在。

古来の日本では受け入れられてきたのだろうが、もう二十一世紀だ。

この代で、信仰が途切れるのではないかと思っている。


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