鬼ヶ島破滅の種子
破滅の前のお話。
昔々、乱暴で力が強い鬼達が住む鬼ヶ島という島が有りました。
島に観光資源は無く、地下資源も無く、何で島民が生計を立てていたかと言えば、略奪でした。
金持ちのクルーザーや漁業関係者の漁船をパクって島の外まで出向き、略奪して適当に村や都市で遊んで、検非違使的なのが来たら食べ物とプリペイドカード、後は値崩れしない貴金属を持って島に逃げ帰るヒット&アウェーを繰り返していました。
『全く、労働ってのは大変だな!』
島外の人間が聞いたら血管の切れそうな、どの面台詞をあちこちでぼやく鬼達は、それはそれは愉快に楽しく一生懸命に生きていました。
そんなある日の事でした。
「こんにちは、黒犬カワチの宅配飛脚です!」
船でやって来た宅配の業者が黒犬のイラストがプリントされた段ボールを大量に持って来たのです。
「アァ!?ここは鬼が島だぞ!?誰が荷物なんて頼むんだ?誰が俺達に荷物を送るんだ⁉
考えろよタコ野郎!絶対爆弾とかその辺だろ⁉捨てろよオラ!」
割と自分達が悪党だと知っている…その上で反省も罪悪感も無くやらかしまくっている鬼なので、報復のリスクが有る事は自覚している鬼達。
「いえ、あのぉ、こちらもその辺はしっかり対策をしているので、爆発物や危険物では有りません。
如何やら植物の種みたいですよ。」
「んん⁉何でソンナもん……誰だよ⁉送り付けたの⁉
あぁ?ペッシュコーポレーション?」
見知らぬ名前に首をひねった鬼ですが、相手が何を企んでいるか察した。
『送り付け商法』
ここ最近まで鬼達が人間共から巻き上げるのに使っていた手法でした。
高額商品を送りつけて後々料金を要求する。雑に送り付けるだけで金が儲かるという事で楽な商売だったのですが、今はその辺から撤退しているのです。
特定商取引法が改正された結果、令和3年7月6日以降には売買契約に基づかない一方的に送り付けられた商品は送りつけられた側が処分して良い事になったのです。
商品を開封や処分しても、金銭の支払いは不要。要は送り付け損になる訳です。
倫理観は無い代わりに、割とその辺はしっかりしている鬼達。
という事で、鬼に対しての詐欺紛い商法は無意味でした。
「ヤッホー!」
「オメェ飛ばねぇじゃねぇか!ヘッタクソー!」
黒犬の箱と怒号が飛び交う深夜。
深夜の鬼ヶ島の土壌に荷物の種子がばら撒かれる。
それが惨事につながる事を、誰も知らなかった。
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