邪智と略奪の黒桃太郎

黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)

破滅した鬼ヶ島

 目の前に広がる光景は、それはそれは信じられないものだった。

 元々瘦せた土地と言えば瘦せた土地だった鬼ヶ島。

 島の東端と西端にある急勾配の岩山と岩の地面の合間合間に申し訳程度に存在する土の地面が示す様に、ここは岩の島。土壌は農耕にはあまり向かない。

 先祖の鬼達が剛腕と金棒を振るい大岩を砕き、硬い土を耕し、瘦せた土地でも育つ作物を島の外から探し出してようやっと自分達が餓死しないでいられる分を育てられるようになった。

 それでも緑は少なかった。

 しかし、今は如何だろう?

 空を覆い隠し、島の何処からでも見えた東西の角山つのやまさえも隠し、南北から吹く海風は密集した緑によって防がれている。

 地面も剥き出しの岩と土の灰色から花が咲き乱れて白と桃色が覆う様になり、硬く刺々しい大地は緑色の柔らかな絨毯へと変わった。








 植物の生い茂る合間をよくよく見ると、所々に打ち捨てられた段ボール箱の残骸が見える。業者のマークの黒い犬がプリントされたそれらの宛先はもう雨風にさらされて読めはしない。

 幾かの暴動の末に破壊されたアンテナ。あれが立った時には皆が喜んだものだ。しかし、それは過去の話。破壊された事で安堵している者が今は多い。

 元々あった集落は貧しくも活気があった。

 今では貧しく、鬼々の心は荒み、争い、しかしてその争いも死んだ目をした者が闇雲に金棒を振り回して自分の不幸を嘆き、喚くだけ。そこに活気は欠片も無い。

 財産は毟り取られてしまい、鬼が持っているのは自分のみ。

 全て、全て、悉く、尊厳も思いも矜持も全て、奪い取られたのである。

 そう、一人の人間の策謀によって全て簒奪されたのである。





 「これが人間のやる事かよ………モモタロォオオオオオオオオオオオオ!!」

 かつて栄えた鬼達の島、略奪と暴力によって栄えたその島は一人の人間によって虚構の繁栄を見せつけられ、その上で全てを目の前で毟り奪い取られた。

 彼の者の名は、略奪と簒奪の魔王、鬼が『鬼』と呼ぶ冷血の名は『桃太郎』と言った。


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