第11章

 姫の成人式の日、女王が鏡に見たのは白雪と自分が一緒にいる様子だった。鏡がこの世の何より美しいと示したものは、この親子、もしくは血の繋がりがなくとも固く結ばれた、2人の絆だったのだ。女王は少しでも白雪に嫉妬した自分に嫌気が差した。しかし、その顔はこれまでと違い穏やかだった。鏡に礼を言い、綺麗な夢を見て眠った。

 ただ、あんなことを思ってしまった自分に、白雪を愛する資格があるのか不安だった。だからあの日から娘を避けてしまっていたのだ。アンから白雪を預かるという手紙が来たときも、正直ほっとしていた。その間、これから自分がどうするべきかを考えていた。

 1ヶ月経ち、アンから話を聞いたとき、女王は腹をくくった。白雪にすべてを話そうと決めたのだ。彼女の好物のりんごを貰い、城に戻った。

 何度も言うが、彼女は頭が良い。女王の姿のまま城を出て森へ行くことは立場の面でできない上に、白雪が話をしてくれないかもしれないと思った。そこで使用人の部屋に行き、汚い服などで老婆に見えるように変装をしてから部屋を出た。その間も、不安でずっと唇を噛んでいた。


 手に持つ果実が毒だなんて、夢にも思わなかった。


 そして、森の中で白雪と再会した。家に入った時点で正体を明かしてもよかったのだが、彼女は欲張った。老婆の姿で白雪から自分への思いを聞こうとしたのだ。

 しかし、親しくなるためのりんごを口にした白雪は死んでしまった。女王は、どうしてこうなったのかわからなかった。慌ててその名を呼んだが、反応がない。助けを求めて人を探すため、邪魔な変装道具を取り、外へ出ようとした。

 そこで、賢い彼女は気がついたのだ。理由は知らないが、これら全てはアンが仕込んだものだと。親友だと思っていた女に裏切られたのだと。

 白雪が死んだ痛みと、自分が殺めたという事実と、アンへの怒りで女王は壊れた。何も可笑しくないのに、口からは笑いしか出てこない。女王は森を闇雲に歩いた。


 見知らぬ7人の男が、白雪を殺したのかと聞いてきた。私が殺したのではないと、どうして言えるのだろう。あのりんごは、私が食べさせた。そもそも、私が白雪をずっと純粋に愛せていたら、こんなことにはならなかった。私が、私の愛しい姫を殺したのだ。


 大雨のため本人でさえも気づかなかったが、女王は大粒の涙を流していた。そこへ、雷が落ちる。落ちていく間、女王は思った。


 ああ、これは天罰なのね。白雪、どうか……、


 その続きは、誰にもわからない。



 あの王子は、アンを愛していた。女王のことは気にかけていたが、それは彼の持つ優しさ故のものでそれ以外の何でもなかったのだ。アンは愚かにも、彼を愛しすぎて、大切なものが見えなくなっていたのだった。


 ところであの鏡だが、大罪人の持ち物として壊されてしまった。これで真実を知るものはアン以外にいなくなった。


 愛が愛を殺した悲しき物語。今はただ、その事実を隠すかのように、雪だけが降り続けている。

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