雨のち猫模様
文月 いろは
プロローグ 黄昏は雲に消える
6月のはじめ。
西の空では紅色に輝く太陽が雲を照らして、雲には茜色が散りばめられていた。
逆に東側の空は、暗い藍色が空を包み込み、真丸な月が顔を出していた。
『
世間一般ではそう呼ばれているこのひと時。
私はこの時間が大好き。
朝と夜の間にいる気がして得した気分になるから。
ベランダに出てそんなひと時を堪能していた。
何も考えずに黄昏時を堪能しているといつも思う。
『私は歳をとってもこんな何気ないひと時を覚えているんだろうなぁ。』
嫌な記憶も嬉しい記憶もいつかは忘れてしまう。
まだ17年しか生きていないがそれは実感している。
でもこんな何気ない日常はなぜか覚えている。
それも実感している。
だからこんなひと時を大事にしたいと思うんだろうな。
気がつけば茜色の雲がすっかり黒くなって、雨を降らせ始めた。
慌てて部屋に戻ると、雨はどんどん降ってくる。
窓の外を見ていると一匹の猫が雨宿りをしにベランダに来た。
まだ幼いだろうその猫は
それはまるで『アマリリス』のような。
大きく咲くその花を見た時に感じたことをその猫にも感じていた。
雨の日でも外にいるってことは野良猫なのかな?うちで飼えるかな?
そう思ったが、その猫は消えていた。
飼い主の家に帰ったのだろうか。
雨に濡れて大丈夫なのだろうか。
心配したが、ほんの3分前に出会った猫だ。
きっとこのことは明日には忘れているだろう。
その猫を飼おうとした私の思いは、雲に隠れた月のように
夜の空に消えていった。
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