第五話


 何か威圧するような空気が立ち込めて来て、身体がソレに反応をする様に重く何かがアタシにし掛かる。


 これ、何かヤバくない? 直視出来ない閃光が冷静さを失わせようとしてくるのを、アタシは必至で堪え耐えてるんだけれど。この威圧感って云うのか、巨大な何かが現れるのは簡単な状況にパニくらない様踏ん張ったわよ。


 そして閃光が収まると、そこに3m近い巨人が一人立っていた。


 【我はヴェウルスク、えにしを司る柱にして六柱のおさことわりに弾かれし者ぞ寵する為に降臨せり】


 カミさま、キタぁぁぁぁぁ! まさかの六柱の長登場! 何か理解不能な単語を仰せられたよ?


 ハッとして周囲を見ると、アタシ以外はヴェウルスクしんさまにおののき、五体投地で平伏ひれふしてる。


 五体投地って見慣れてないと、地面で水泳の蹴伸びの練習をしている人にしか見えないんだよねコレが…。ミョ~ンって擬音が聞こえてきそうって云うか何と云うか。伸びてますよぉ、すんごく伸びてますよぉって自己主張みたいのがね……などと思いながら、アタシは下っ腹に力を入れて畏まりたい衝動を我慢し、呼吸と気力と根性で何とか立っていられたわ。


 ことわりに弾かれし者って、アタシなんだろうなぁ。ちょうする? ンン? 恩恵を与えるって事なの?


 【である】


 「え?」


 思考が読まれた? って神様なんだから当たり前っちゃぁ当たり前よね。


 【そちの思う通りである。理解が早ようて、我はに愉快である】


 七人は蹴のびの練習じゃなかった、五体投地のままで微動だにしていない。今は神様のご降臨だし、アタシみたいに踏ん張って見上げるとか、畏敬の念に囚われて、アタシに構っている場合ばやいじゃないんでしょうね~。


 アタシはアタシで『返事が無い只の屍の様だ』って脳裏をぎる。でも今はそれどころじゃないんだって自分に言い聞かせるんだけれど、言葉を発したらイイのか、このままでいいのか・・・…どうしよう。


 【そのままで構わぬ】


 あっそ、んじゃテレパスでって事でOKよね。でも、このプレッシャーは正直しんどいです。


 【おお、そうであったな。これでどうであろう?】


 『ふぅ』っとヴェウルスクしんさまの吐息? ソレを吐くと、ヴェウルスクしんさまから叩き付けられる様なプレッシャーが幾分か緩くなったのは助かったわ。


 「すぅぅぅはぁぁぁ」


 深呼吸をして、うん、OK! OK! 大丈ビ! 大丈ビ………あぅ。


 やっと真面まともにヴェウルスクしんさまを見つめられるようになって、思わず神々しいさまって云うのを実感してしまったのよ。


 ヴェウルスクしんさまは、所謂いわゆる『女神様』で巨人と見紛う御神体ではあるけれど、そこに顕現しているのは『美』そのモノだった。


 髪の毛は光色? んー神の毛って感じ…アタシってば莫っ迦じゃないの? あぁぁハズい。衣服も光で出来ている様で光衣こういって云えばいいのかなぁ。まぁ、そんな感じの法衣の様な服は足元まであって、あんよは見えない。裸足なのか、サンダル的な靴を履いているのかも分からないよ。


 それでもって、思わずガン見してしまう胸。そう、オムネ様は存在感が絶大過ぎるぅぅぅぅんです。それだけ大きくて何故に垂れないの? って思いを小莫迦にしてるでしょ? ってなくらいツンってしてる…アタシだって負けないもん…負け…ま…スイマセン見栄を張るのはヤメマス。


 どんな高名な芸術家達も、ヴェウルスクしんさまを画にする事も像にする事も無理って思う。ヴェウルスクしんさまの神々しさを人間が完璧に表現するなんて不可能よ、アタシだって説明し切れないもん。無理っぽ、無理っぽ。


 アタシの記憶が確かなら、ヴェウルスクしんさまは『えにし』を司っていて、この世界の最初の神様って事。母神様って言ってもいいんじゃないかなぁ?


 【我は、その呼び名を好まぬぞ】


 あ、ごめんなさい。こんな超絶な美女が…こんなって言っちゃったよアタシ…バチ当たらないわよね? …そーじゃなくて…コホン。


 超絶美女が『かぁちゃん』って言われたら、そりゃ面白くないって思うのは分るわ。うん。


 【超絶であるか。い事を言ってくれる】


 いやぁぁぁ、慈愛に満ちた笑みを向けないでぇぇ。ほ、惚れてしまぁぁうじゃないのよ! ヤバっ、このまま直視してたら、マジ惚れそうだわ。『神様、アタシと結婚して』とか言い出しそう。


 そんなご機嫌な女神様を見ていると、何だか変な気分になってきちゃう。


 念話に集中しているアタシ達を余所に五体投地の女王達だったんだけれど、やっと復活。でも、何故か正座して事の顛末に固唾を飲んで見守っている。……と、取り敢えず女王達は放置しておこう。


 そして視線を戻すと、そこに見えた笑顔が少し困った顔に変わるヴェウルスクしんさま。


 【それは、ちと困ってしまう。我と婚姻すると云う事は、御霊になって貰わんといかんのでな。そちには、この世界での『えにし』がらぬ故、御霊に上がる事は適わぬ。それはさて置き、そちの世界神と吟味した決を我は果たせねばならぬ】


 けつ? あぁぁ決ね。って、何を話し合ってどうなったのか出来れば聞きたくないんですけど~?


 【案ずるな、そちのしたい様にすれば良い。我は、そちに少しばかりの啓を授けるだけ。そう身構えんでもよい、そちそちであれば良い。『縁』が誉事ほまれごとそちへ運んで来るであろう】


 ほへ? 何か、い・・・嫌な予感しかしないぞぉぉ? それって『運命の導きによって、己に試練が降りかかるであろう』って言われてるのと大差ないってば。


 【では、我の啓をそちに与えようぞ】


 いやいやいや、聞いてましたぁ? 災難でお先真っ暗って未来しか見えないんですけど~~?


 それってスルーしてる? …ね? …スルーなの? …スルーしないで下さいよぉぉ、ヴェウルスクしんさまぁぁぁ。


 【たわむれを許せ、無得むえなどせぬよ。そちの未来はそちが決める事であって、そちの意に反する害等がいなどはせぬよ】


 い、一応、大丈夫そうなのかなぁ。じゃ、じゃぁ宜しくお願い致します。アタシは両手の平を前で合わせ、ぺこりとお辞儀をする。


 【然らば】


 ヴェウルスクしんさまが、その右手をアタシの額に向けると『何かが』流れ込んでくるのを感じた。


 ぽわんと暖かくて優しくて、胸の奥から心の中から安寧感が溢れてくる。


 「………」


 そしてゆっくりと目を覚ますかの様に『ぽわん』とした感覚から覚醒。短く吐息、爽快感に身体が喜んでいるみたい。


 ヴェウルスクしんさま、有り難う御座います。


 短い感謝を述べるアタシに、惚れてしまいそうな笑みを向けるヴェウルスクしんさま。と思いきや、やや張り詰めた空気になる謁見の間。


 【其処の人の女王よ聴け、コトネは我の啓を受けし者也。天が落ち、地が裂け、海が干上がろうとも覆らぬと知れ。遠からず、我が『天使てんのつかい』の元に亜神達が、使徒達が参るであろう。畏み、事無きを得れば、うぬ等の国も栄えようぞ】


 無言で頷く事しか出来ないポロ女王と、その家族諸々は瞳孔開いてんじゃないの? ってくらいの表情を浮かべ、神の啓示を、御言葉を命に代えてでも果たそうと各々決意していた。


 ヴェウルスクしんさまの敬示の効果なのか、アタシのJKドレスの色が白色へと変わり、僅かながら光を放っていた。…これ結構、気に入ってたのになぁ。まぁ、また作って貰えばいっか!


 【して、コトネよ。そちはこれから『コトネェル』そう『コトネ・エル・フジミネ』と名乗るが良い。そちの世界にならうなら『藤峯琴子・エル』であろうか。『エル』は『天使てんのつかい』の証であり、我の眷属なり。そちの正しき思いに『エル』が応えようぞ】


 あ~れ~? おっかしぃぞぉぉ? 啓って言ってたのに『眷属』になっちゃったよぉぉ、たいへんだぁぁぁ。なまえも、びみょうにかわっちゃたおぉぉぉ。おやび~ん、てーへんだぁぁ。アタシの思考回路が、バグった瞬間だったわ。


 ポロ女王達を見ると、アタシに向かって五体投地………。


 【して、これは、そちの世界の神から頼まれた物である】


 アタシの目の前にフヨフヨと『分厚い本』が浮かんでいる。


 これで人を殴ったら死亡確実ってくらいの重厚な本の表紙は、色々な模様と見た事もない文字が掛かれていた。


 恐る恐る手にすると、何処からともなく声がする。


 【それは地球の禁書全てを纏めてあるのじゃ。こちらでは害に成り得るのじゃが、うぬがる世界では重宝するじゃろうて、受け取るが良い『我が子よ・・・・』】


 ひいじぃじぃみたいな優しい声がそう告げると、ヴェウルスクしんさまも頷いた。


 あ、有難う御座います。神様。


 【ほっほっほっほ、良い良い。では、またのう】


 そう言い残し、アタシの世界の神様なんだろう神気が消えて行くのを感じ取れたわ。


 最後の言葉を思い返そうとした時、ヴェウルスクしんさまがアタシの思考に割り込んで来た。


 【ぬぅ、我も何か与えねばならぬな。コトネェルよ、何か所望せい、ままを云うが良い】


 んー、そう仰せられましても………欲しいモノ…欲しいモノ…現状のって事だわよね~。家族を此処にとか色々ダメだろうし、ガッコーの友達…に迷惑かけちゃうわね。


 【ほう、友を欲するか。良かろう、待っておれ】


 云うや否や、軽く右手を振ると八歳位? の美少女が一人現れた。っておぉぉぉい、いきなですか~い! ヴェウルスクしんさまが右人差し指をアタシに向けると、指先から出た小さな光がアタシのオデコに吸い込まれる。


 その瞬間、現れた美少女の情報が大量に流れ込んできてアタシは少々たじろいだ。


 『ヴェ、ヴェウルスクしんさま、いきなし・・・・は止めて下さい』


 【うむ、以後気を付ける事にしよう】


 頷くヴェウルスク神さまの凛々しいご尊顔が素敵過ぎて、頬が赤くなるのを感じちゃって、モジモジしそうになる。くっ! 我慢、我慢。


 くだんの美少女の名は『ロウジィ・フィンペルム』…十歳だった。


 大きな白いマントに包まれた彼女は、アタシの方へテトテトと小走りに寄って来る。


 「いっ!」


 ヤバっ、声出しちゃった。変な声を出す原因は、五体投地のフーグの後頭部を踏みつけたんだよね…ロウジィが。


 えーと、黙っておこう…本人も顔すら上げないし、まぁいいや。踏みつけた事すら意に介さず、彼女はアタシの左側に回り込んで、ちょこんと左腕に頬を付ける。


 『こ、これは、いかんですタイ』何処の言葉かも分からないイミフなセリフを、頭を振って払いのける。


 『可愛いは正義』とか云うけれど、これは『武器』だね。危うく『きゅ~』ってなって卒倒する所だったよ、あない、あない。


 そんなアタシ達を見守っていたヴェウルスクしんさまが、天帰てんけされ様としていた。


 【ロウジィは友としては幼い故、そちの妹…『義妹』と云うところであるか。これも『えにし』よ、息災であれ。のち未来さきで逢うのを楽しみにしておるよ、我が眷属コトネェル】


 ヴェウルスクしんさまは、降臨の時とは逆に閃光の中へと入って行かれ。そのまま閃光は細くなっていき残滓を残しつつ線となり、天へと向かって行った。


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