第三話


 下着…だろうと思われるモノを感で着け、ワンピースタイプのペチコートっぽいを着て、最後に豪奢なドレスを着こんだ。

 髪は濡れたままだけれど、構いはしない。兎に角、現状を何とかしないとアタシの貞操って云うか身が危ない。


 五分もしない内にユリユー達がやってきたので、用意されているであろう『アタシの部屋』に直行する。


 アタシの部屋はそこそこ広くて二十畳は裕にあった。


 座り心地の良いソファーに座って、ユリユーを呼びに行った侍女がアタシの髪を丁寧に乾かし椿油っぽい髪油を撫でる様にヘアケアをしてくれている。

 別の侍女は念入りにスキンケアらしき事をアタシに施しながら、眉辺りの産毛を抜いてくれる。あの~、ちょっと痛いんだけど…。


 風呂上りの始末宜しく、アタシはナムチの事をユリユーに聞き始める。


 「まず、湯浴み場のナムチの事だけど。彼女は何?」


 「何? と申されましても…湯浴み給仕と云う仕事をさせている者ですわ」


 あーもう、この子、難儀だわ。


 「分かる様に言い換えるわ。彼女の湯浴み給仕の仕事内容を詳しく言いなさい」


 『アタシ専属』の侍女が用意してくれたお茶を飲みながら、ユリユーを問い詰める。


 「湯浴み給仕の仕事内容で御座いますか? それはですね………………」



 ユリユーの話しを聞き終えて、アタシは愕然とした。


 分かってない? アレがそうゆう行為・・・・・・なのは教えられないでも本能で分かるでしょ普通。それとも……ど天然なの? だけどアレの所業は給仕・・とは言えない、アタシの知っている言葉で云えば『風俗嬢』だ。


 頭に浮かんだ疑問をそのままユリユーに投げる。


 「コホン、…ゴニョゴニョ・・・についてだけど…」


 「ええ、×××ピー洗いはとても気持ちが良くって、頭が真っ白にって仕舞いますの。×××ピー洗いの後は身体がスッキリいますのよ? 怠さは少し残りますが、×××ピー洗いは3日に一回、必ずしておりますわ」


 ダメだこりゃ…マジで分かってないな。まぁお莫迦ど天然だから、召喚術を平気でやっちゃうんだろうけれど。


 これからの事を考えて、アタシ自身の身を守るためにも、ユリユーにはアレを理解して貰わないといけないので恥ずかしいのは置いておく。


 「あのね、×××ピー洗いってのはね…………………」あははは……言っててハズい…。



 ◇



 「………って事なの、分かった?」


 ティーカップを持ったまま固まっているユリユー王女の手から侍女がカップを奪…受け取る。


 「え~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


 そして、耳をつんざく大絶叫。


 「あああああれは…はははは母上様が、ひひひひ必要だって…」


 んー、女王も莫迦って云うか、変態だよね。王とか王子とか……うぅ、想像しちゃったじゃないのよ。最悪よココ・・、何て世界に攫われたのアタシ………勘弁してよ。


 ユリユーが言うには、×××ピー洗いは11歳の時、初潮が来た時に女王から『必要』と説明され。それ以来『清潔』にするための洗体として認識していたみたい。女王って莫っ迦じゃないの?


 目の前のユリユーはアタシを召喚誘拐した張本人で、許すまじ犯人ではあるけれど。何だか、聞けば聞くほど可哀想になってきたわ。


 「これからは自分で身体を洗う事ね、アタシは自分一人でお風呂に入るからね。誰も付けないでよ!」


 「でも、でも。清潔にしないと…」


 「自分でやんなさいよ!」


 「……わたくし、自分で洗体した事なんて御座いませんの」


 はいはい、そうですね! お姫様ですもんね!


 「別に洗体は良いとしても、アレは自分でやんなさい。外部に漏れたら恥で済む問題じゃないと思うわよ?」


 「では、コトコ様がどうやって「アタシのやり方を見せてとか言ったら、王子にした事と同じ事を貴方にもするわよ?」

……はい、申し訳御座いません」


 本当に難儀な子だわ。自分アタシ明日未来も考えなきゃいけないのに……何この苦行。アタシ出家した覚え無いんですけど? しごき三昧の総格部の合宿とか、ひいじぃじぃの『打突』や、ひいばぁばぁの『正面打ち一教』とかの方が百倍マシよ。


 もう面倒なので、アタシ専任の侍女を呼ぶ事にした。


 「え~と」


 彼女の名前なんだっけ?


 「エリダで御座います、コトネ様」


 「エリダさん」


 「さんは不要で御座います、コトネ様」


 またコレ? まぁいいや。


 「んじゃ、エリダ、こっちに来て」


 チョイチョイと手招きをして、エリダを傍に呼びつける。耳を貸してとジェスチャーで伝えると、彼女は前屈みになりアタシに耳を寄せる。


 「ゴニョニョ、ゴニョニョのゴニョニョ」


 耳打ちに戸惑いを見せるも、ユリユーの為にお願いと云うと二つ返事で了承してくれた。


 「ユリユー、エリダがアタシの代わりに教えてくれるから。今から一寸ちょっとだけ、湯浴み場に行って教わってきてね」


 「ユリユー王女殿下、このエリダ、見事に大役を果たして見せましょう」


 彼女……エリダは深々とお辞儀をし、お手をとユリユーの手を取り湯浴み場へ向かう二人を横目にアタシは一難去った事を内心安堵していた。


 アタシは関知しない、しないったらしない。


 「ふ~、紅茶かな? 美味しい」


 プチ現実逃避しつつ、美味しいお茶を堪能する事にした。


 それから十分もせずに戻って来た二人の態度は、それぞれ満足感に満ちていた感じだった。


 「エリダ、大丈夫だった?」


 「はい、コトネ様に仰せつかった大役、見事に果たせたと思います」


 「で、ユリユーの方は?」


 「この度は、わたくしの名誉を守って頂きまして有難う御座います。このユリユー、コトネ様にどれだけ感謝しても、し足りませんわ」


 いいや、教えたのはエリダであってアタシじゃない。切っ掛けはそうかもしれないけれど、感謝するならエリダに言いなさいよってユリユーに言うと。


 侍女として当たり前の事で御座いますと、ユリユーの感謝を辞退しようとすれば。いけませんわとユリユーも引き下がらない。


 あーだ、こーだ、と言い合っているだけで埒が明かないって思って「後日、内々に褒美を与えればいいじゃないさ」とアタシの提案が採用された。


 エリダの実家は男爵で、所謂貧乏貴族だったみたい。だけど今回の事でユリユーからの『お礼』で貧乏を脱却出来たとの事。


 エリダのお父さん、ギャッツ・ド・ハイフォン男爵はユリユーの領地と隣り合わせだった事もあって、今回の件で新たに領地を与えられと事が転機となり、特産物を生み出す切っ掛けになったみたいなんだよね。

 贈与された土地は魔獣の住む森があったのだけれど、オークと云う魔物のコロニーが発見されたんだって。しかも希少種のオークで、繁殖力は他のオークに比べて3倍。『食用』としても臭みも無く、狂暴が特徴であるはずなのに臆病でひ弱なんだとか。


 男爵は『テイマー』という魔術を会得していて、オーク程度の魔物なら使役出来る人なんだって。凄いよね。


 そしてリモアール王国初の『オーク牧場』を開いて、ハイフォン・オークと云うブランドを作り上げ。一躍、大金持ちの仲間入りって結果になったと聞いたのは後々のお話し。



 そうそう、アタシにも能力と云うのか『加護』ってのがあったみたい。鑑定して貰った結果『肯定』と『否定』と云うモノで、初めて発見された加護って言われたんだよ

 『肯定』と『否定』の加護が、何をもたらすのかは分からないんだってさ。新発見の加護だから追々おいおい調べて行くとこになったんだけれど、アタシからしてみれば想像し易い加護だと思うんだよねぇ。


 何やかんやあって、晩御飯を食べて、今日は解散となった。目まぐるしい一日に心身共に疲労困憊。満腹感も手伝って慣れない大きなベッドだったんだけれど、アタシは横になると直ぐに深い眠りに落ちた。



 ◇



 翌日、一寸遅めの起床。お昼前だったのは仕方ないでしょ? マジでクタクタのヘロヘロだったんだし、そんくないに疲れ果ててたって事で……まぁ、朝方「やばっ寝坊した?」って一回目が覚めたんだけど、ベッドと部屋を見た瞬間に「あぁ、がっこー行けなくなっちゃったんだ」って分かって、不貞寝してただけっての内緒。


 二度寝の惰眠を貪っているアタシを他所に、ユリユーは女王ははおやに召喚したアタシの事を報告して、その対応策補償を話し合ってたんだとか。

 それで報告を受けた女王の判断は、ユリユーの失態は王族の責任であり、親たる女王は謝罪の場と交渉の場を設ける段取りを即座に指示したんだって。


 建前上は『謁見』って形にしないとダメ見たいで、臣下や配下には内緒で謝罪をするって事だから、まぁ『謁見』って条件を飲むことにする。やっぱり、家臣には見せられないモノだろうしね。スケジュール的にもソレじゃないと駄目とか言ってた。王族のスケジュールも大変なんだろうけど、即対応って所は好感が持てた。


 それから建前上の謁見の日まで六日の時間があるってんで、アタシはこの世界での常識や礼儀作法、歴史云々等を時間の許す限り勉強したわよ。


 情報を制する者が勝つのは常識だからね、それはどの世界でも変わらないと思うし無いより有るに越した事はないってね。

 王城の書物を読み漁ったわ、もう寝る暇も惜しんでね。最初は文字読めなかったんだけれど、ユリユーに教えられながら目を通していく内、瞬く間に覚えてしまった。


 言葉は召喚補正ってゆーのが掛かって、召喚時に『言語付与』されますのってユリユーが自慢気に云うから『誘拐して言葉が通じない方が都合が良かったんじゃないの?』ってアタシの言葉に半べそをかいてたっけ。ふん、簡単に許されると思わないでね。


 さっきの文字については多分、加護お陰だとアタシは気付いたんだけれど。周りの皆は、そう思わなかったみたい。


 「才女ですわ」だの「流石は異世界の方です」とか「才色兼備さまぁ」だったりね。褒めても何も出ないわよ? 自分の持ち得るモノは、この身体だけだからね。


 「やはり、湯浴み場でご奉仕を」…エリダ、あそこで興奮しているナムチをどっかに捨てて来て頂戴な。


 泡嬢ナムチはユリユーの『ご奉仕』から外されたみたいだけれど、女王の『ご奉仕』は継続してるんだって。…信じらんないわ、この国の女王ってマジやばくね?


 話しが逸れたわね、本筋に戻りましょっか。


 そんなこんなで、この世界の事が色々と分かって来た。この世界で最低でも知っておかないとダメなのが、神々が存在すると云う事。六柱の主神様方と十二柱の亜神様方が地上界の上位界『天原あまのはら』と云う場所におられるとか。


 空神スィキィ海神オーツァン山神ホーラ月神ミュシーチ陽神ヤンク縁神ヴェウルスクの6柱神様方と。

 ウオノサスイェロスルダンルゥグンジャンギサバディッテスセリナキヨミジャンジャンピースーマイランディデの十二亜神様方が世界を構築している。

 十二亜神様方は時折地上界にご降臨され、知識や技術等を御披露目おひろめなさるみたいなんだけど、前回のご降臨は百二年前なんだってさ。


 その亜神様に直接庇護を戴いている人間が『使徒』と呼ばれ、三十六人が教えを導いているんだとか。

 その三十六人とは別に、六柱の主神様方の庇護を受けた人間を『天使てんのつかい』と呼ばれるらしんだけれど、その存在はまだ確認されていないんだって。


 教えは「暴食」「色欲」「強欲」「憂鬱」「憤怒」「怠惰」「虚飾」「傲慢」「嫉妬」の悪なる根源を抑え、「節制」「純潔」「救恤きゅうじゅつ」「慈悲」「勤勉」「忍耐」「謙譲」「祈願」「生産」「繁栄」「調和」「希望」に生きよ、としてて。

 教えに反した行為には「対価」と「義務」が与えられ「試練」を乗り越えなければ『神の加護は消え失せ生まれ変わる事は叶わず』魂は消え去るとされ、罪人には猶予はあるが「執行猶予」内に試練をクリアしないと、神判が下り消滅すると言われていて。

 現に、神判の事象は幾つも確認されてて、記録書を読んだ事のある人は、その恐怖に六日前後は寝込む有り様なんだってさ。おーこわっ!


 それはさて置き、アタシの加護がどの神に依るものなのか、各神殿に赴いて啓示を受けなければならず。当たりを引くまで、神殿巡りを続けないとダメって…あ~、難儀な話しだわ。

 他の国々や数えるのが面倒になる程の言語があったり、民族だの習慣があったりだとかは端折っておくわ。だって、面倒だし長くなるの嫌でしょ?

 運動もしたいって言ったら、アタシ専用の修練場も用意されててね、情報収集どくしょの後に遠慮なく使わせて貰ったわ。

 見学しに来たユリユーや聖女候補者共に侍女達は、アタシの『鍛錬』を不思議そうに見ていた。

 剣道や合気道の型は勿論の事、総格部の鍛錬もやったしね。彼女等の間の抜けた顔は、それが原因だったんだろうけれど阿呆顔がいくつも並ぶさまが可笑しくて堪らなくてね。我慢しながらの運動は、呼吸とか乱されて勝手が変わって肌骨ぎこちないんだけれど、そこそこ鍛えられたし結果オーライって事で良しとした。


 あと、鍛錬の合間にユリユーは双子の妹なんだと聞いた時には、にぃ達を思い出してブルーになり掛けたのは内緒内緒の一文字。


 双子の姉の名前は『ロリロー』んで、この前ぶん殴ったのは兄の『フーグ』王の名前は『チチーク』と云う名前。

 ………家名と一緒に読んじゃ…ダメな気がする。…くっ十八禁王族め! 何なのよったく~本当に勘弁して欲しいわ。 これが日本だったらセクハラ案件で訴えちゃうわよ。本当に、もう、何つー名前してんだよって話し。


 はぁ、アタシって運が悪いんだろうか? 遊びで召喚されたくらいだから、何とな~くそんな気がしてたけど、こりゃこの先が思いやられるわ……とほほ。


 でも、諦めが肝心って言葉もある位だから今はそれでいいや、諦めよう。ウジウジしてたって状況が好転する訳じゃないし、色々と学んで、アタシが生きていく上でなるべく不自由に成らない様に頑張んないといけない。そんな事を考えつつ鍛錬してた。

 そして密かに『加護』を意識しながら、ユリユーや聖女候補者共に使って、その効果の検証もしていたのよ。何回か使っている内に、加護の効果が分かってしまった。


 「ふふふ、謁見の日が楽しみでしょうがないわ、待ってなさい十八禁共め」


 今のアタシの笑顔は、鏡を見ずとも分るよ『とても悪い笑顔になってるんだろう』ってね。

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