第115話 逆転の一手
タローは一種の天才である。
究極の攻撃力。類まれな防御力。
一目で覚える観察眼に、野性的な危機察知能力。
新人の冒険者としては破格の才能を秘めた男であった。
そんなチートとも言える
「チート主人公かよテメェは!」
怒りと驚きの混ざった声で荒げた。
相手の名はムサシ・ミヤモト。Sランク冒険者の中でも最強と呼ばれる男である。
そんで、今しがた本気を出した。
スキル:
その名も、
効果は『10分間"無敵"状態』であった。
あの有名は配管工も10秒程度が限界だというのに、こっちは10分である。
チート主人公よりもチート主人公っぽかった。
「いくよ、タローくん!」
ムサシは勢いよく駆け出した。
しかも最大解放前より格段に速く、だ。
「んぐっ!」
初撃を何とか
速度では劣るものの、鋭い勘と動体視力で動きを捉える。
タマコの
(黙っててもどうしようもないか)
タローは珍しく弱気であった。
10分以上時間を稼げば勝利できるであろうが、ムサシ相手に時間稼ぎをするのであれば殺す気でいかなければならないだろう。
――攻撃は最大の防御――
守るよりも攻めにいくのが得策だとタローは判断した。
度を超えた怠惰の持ち主であるタローは溢れんばかりの魔力を放出させると、刃と身体にさらに纏わせた。
そしてムサシがもう一度攻撃を仕掛けるのと同時にタローも反撃の一打を繰り出す。
「いい加減、終わらせろッッ!」
強烈な一撃はムサシへと撃ち込まれた。
……の、だが。
「ごめんね、効かないんだ」
ムサシは今、"無敵"なのだ。
あらゆる攻撃は無効化され意味をなさない。
「マジかよ」
最速のスピード。
最硬の防御力。
さらに。
「
二振りの
タローは技が来ると判断すると、できる限り距離を取る。
「
その一撃はまるで鞭のように振るわれた。
刃に覆われた魔力は振るわれると同時に長さを拡張し攻撃範囲を拡大。
距離を取ったタローにも容易に届いたのだ。
(あーヤバいかも)
ちょうどタローがムサシをブッ飛ばしたのと同じ距離であった。
速度と防御力に加え、無敵状態の攻撃力は凄まじい。
それだけの絶望的な能力に諦めたくなるのも無理はない。
タローがサレンダーしても、そのことを責めれられる者はいないだろう。
それなのに、タローはまるで諦めていなかった。
(……
それどころか、何か秘策を思いついていた。
タローは気怠い身体を起こすと、目を瞑って深呼吸し息を整える。
「……準備はできたのかい?」
目を開けたとき、ムサシがやって来る。
タローは落ち着いていた。
真っすぐにムサシを見ると魔剣を強く握る。
(成功するのが先か、負けるのが先か、勝負だ)
タローが力を入れるのを見るとムサシも魔剣を構えた。
しかし、ムサシは少しだけ驚いた。
タローは身体に纏っていた魔力を解いたのである。
(
疑問に思うがタローの考えまでは読み切れない。
無敵である以上攻撃は通らないため、いったん様子見することとした。
「――やるか」
タローが動いた。
先ほどよりスピードは劣るが、魔剣には魔力を纏わせているため威力はある。
「無駄だ。効きはしない」
平然と一撃を受け止めると、もう一本の魔剣で攻撃する。
「――ッ」
だが身をのけ反って何とか躱した。
そしてもう一度、いや何度もタローは攻撃を仕掛ける。
「だから、効かないよ!」
普通に受けていれば間違いなく死んでいるであろう威力。
それを平然と受け止めるのはスキルという能力の異常さを表していた。
(まだだ、まだ……)
ムサシに攻撃を回避しつつ攻撃を繰り返す。
何度かは完全に躱しきれず掠り、血が溢れた。
それでもタローは一心不乱に魔剣を振り続けた。
(思い出せ、あのときを――)
タローは記憶の中を旅していた。
深く、鮮明に思い出すために。
それは数分前のことだ。
初めてまともにくらった、あの攻撃――
「――あっ、そっか」
何かに気付くと、思わず声に出していた。
そしてすぐにそれを実行する。
(なんだ?)
怪訝に思うムサシであったが、すぐに目の前に集中した。
横薙ぎの一閃をタローが身をかがめて躱したのを見て、ムサシは
「
まさしく虎の牙を彷彿とさせる斬撃であった。
と、そのときムサシは見た。
(まさか!?)
ムサシは一瞬でそれが何なのかを判別した。
攻撃のモーションに入っているためキャンセルはできない。
そしてタローは
少しだけ肩には掠ったものの、タローは気にせず反撃の一打を放った。
研ぎ澄まされた魔力を纏ったその一撃は、見事にムサシへと撃ち込まれた。
その
無敵状態でありながらも、その威力は確かに通じたのである。
「……もう、覚えかけているんだね」
ムサシは目を見開き驚愕した様子でタローを見やると小さく呟いた。
タローの一撃は不完全ではあったが、それは間違いなく魔剣の共通能力、第四の技――
「――
無敵を壊す、最強の一手である。
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