第94話 その力は希望か、絶望か

 強化五感スーパーセンスは五感を最大限まで強化するスキルである。

 レオンはこの能力で相手の動きを分析、予測することで自分より強い敵にも勝利を収めることが出来た。

 パワーやスピードが上がると言った派手な技ではないが、レオンという一人の大天才が使用することにより、このスキルは強力と言って差し支えない実力を発揮している。

 しかし、唯一弱点があるとするならば、レオンはこう答える。


 ――行動に0.3秒の遅れがでてしまう――と。


 相手の動きを予測する。

 聞こえはいいが、予測するための思考にも時間を使う。

 神がかり的頭脳で分析を行うことで0.3秒というスピードを叩き出すレオン。

 だが、ムサシほどの速度で動かれては、この0.3秒というタイムラグが命取りとなってしまうのだ。


 レオンはこの事実をスキル発動直後に察知した。

 予測する前に動かれては、スキルの効果も半減。

 運よく避けられるときもあったが、それも長くは続かない。


 スキルでは対応できない。


 ――ならば、使うしかないだろう


 ――使うのは好きではないが


 ――仕方がない……全てはより良い未来のため、だ……




 ***




「最大解放か――面白い!」


 のど元に突き付けられたナイフを弾き、すぐさま攻撃を仕掛ける。


「その力、見極めさせてもらうよ!」


 右手でナイフを弾き、左手の脇差でレオンを狙おうと――


「――"左で斬ると見せかけ、本命は左足による蹴り"……ですか」

「なに!?」


 レオンはムサシの攻撃前に、攻撃方法を言い当てた。

 すでにキックを繰り出そうとしていた足だったが、ギリギリで攻撃を止める。

 もちろん、狙っていた箇所には傲慢の魔剣ルシファーが待ち構えられていた。


(なんだ……どうやって動きを読んだんだ?)


 ムサシの頬に冷たい雫が流れる。

 奇妙な気配を感じて一歩ずつ距離を取った。

 しかし、そこには――


「ムサシっち……不用意に動くと危ないよ?」

「あ――」


 しまった、とムサシは顔をしかめる。

 レオンに気をとられ、つい頭から存在を消してしまっていた。


(そうだ……アルバートのこと忘れてた!)


 途端、ムサシの足元が爆発を起こす。

 が、ムサシは勘の良さから危機を察知。

 高速移動で回避した。

 ところが、そこでムサシは異変に気付く。


(いや、おかしい! これは爆弾というより――)


 確かに凄まじい爆発だったが、ムサシなら躱せるほどの威力。

 正直言って、時間稼ぎ程度にしかならない。

 だが、本当に凄まじいのは爆発の威力ではなく、その煙の量。

 黒煙がムサシの周囲を包み込み、視界が利かなくなってしまったのだ。


「この程度、憤怒の魔剣サタンで斬ってやる!」


 ムサシは魔剣の力で煙の切断を試みる。

 万物を斬る断罪執行サタナエルなら煙を斬ることは可能である。

 刀を振るおうとする腕に力を込めた――その瞬間

 嫌な気配を背後に感じた。


「うおっ!?」


 身を翻すと、先ほどまでいた所にナイフが突きつけられた。

 もちろん正体は、レオンである。


「――さすがの勘の良さだ!」

「そっちこそ……いやらしい攻撃してくるね!」


 ムサシは二刀を十字に合わせると、そのまま刀を振るう。

 すると、刀に覆われていた黒い魔力が斬撃として放たれた。


(――っ!? まさか!)


 煙を吹き飛ばしながら向かっていく斬撃だったが、レオンはそれを簡単に避けてしまう。

 レオンを睨むムサシの視線と、ムサシを視るレオンの視線がぶつかった。

 だがそれは一瞬のことで、レオンは地面に設置させられた地雷をわざと踏むと、もう一度爆発、煙を発生させた。


(……にわかには信じがたいけど……そういうことなんだね)


 斬撃を躱したレオンに、ムサシは確信した

 ほんの一瞬しか見えなかったが、レオンはあのとき、確かにムサシが斬撃を放つ動き出していた。

 思い返せば最大解放を発動してからそうだ。

 まるで、ムサシの来る位置を知っていたかのように動き出していた。

 極めつけはレオンの視線。

 レオンの視線はムサシに向かっていた。

 けれど、どうしても瞳が此方を見ている感覚がしないのだ。


(つまりレオンさんが見ている……いや、『視ている』のは――)




 ***




 レオン・フェルマーのスキルは強化五感スーパーセンス

 五感を強化する能力である。

 だが、レオンはそれでも、ムサシの動きについていけない。


 強化した五感でついていけない。

 何故なら予測時間が間に合わないから。


 ならば対抗するには、その予測時間を無くすしかない。


 予測時間を無くすにはどうすればいいのか――




 視ればいいのだ……



 ――『未来』を――





 ***





 黒煙の中でも、レオンはムサシの位置を特定できる。

 いや、正確には位置をのだ。



 スキル、強化五感スーパーセンスでついていけない動きをするならば、初めから動きを知っておけばいい。


 それがレオンの最大解放――<六感覚醒シックスセンス>だ


 直近で30秒以内の未来を予知する能力であり、一度視てもタイムラグは発生せず、最大解放の時間制限が来るまで好きな未来を視ることができる。


 この能力により、レオンは視界の利かない場所であっても、ムサシの居場所が正確に特定できるのである。


(私は何としても、ここで君をさせる!)


 アルバートが仕掛けた罠も未来を視れば、どんな罠なのかも、設置場所も知ることが出来る。

 上手く避けながらレオンはムサシへと静かに迫った。



(ムサシくん……未来は視たいですか?)



 ムサシはまだレオンに気付いていない。

 このままレオンが一撃を加え、明之明星ルシフェルを発動させた瞬間、レオンの勝利だ。


(未来を視ることで、救える命がある……けれど――)



 傲慢の魔剣ルシファーが、ムサシに触れようと――





(未来を知ることは――絶望でもあるんですよ)

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