第73話 (`・ω・´;)
魔王ハンター=クロス=トパーズは強敵であった。
強力な水魔法もさることながら、剣の腕前も大したもの。
魔法も一流。
魔剣を扱えるだけの"強欲"も兼ね備えている。
剣の腕前も達人の領域だ。
それほどの実力を兼ね備えたクロスだったが、冒険者レオン・フェルマーには及ばなかった。
「……魔王クロスは
素の実力なら圧倒的にあちらが上ですよ」
「うぇー、おもしろくなーい。
もっと調子に乗ってもいいんじゃない?」
クロスとの戦いを振り返ってのレオンの感想は謙遜であった。
油断禁物という意味もあるのだろうが、お調子者の
「……調子に乗って他者を見下しているほうが面白くないですよ?」
「むぅ……」
が、すぐに論破されるとアルバートは口を閉じた。
漸く静かになった相棒にレオンは一息つくと、青く広がる空を見上げた。
「……さて、次が私の――」
何かを言いかけるが、一瞬目を細めると、その後の言葉は発しなかった。
「?」
アルバートは不思議そうに眺める。
そのとき、一陣の風が吹き荒れた。
アルバートは思わず目を瞑る。
だが、レオンはその風にも動じず、ただ一点を見つめていた。
「――やはり来ましたか」
その眼に映るのは――
***
「……すまぬ、待たせた」
5分で戻ってくると言っていたタマコは、結局のところ10分以上経過してから姿を現した。
時間にうるさいタマコにしては珍しい出来事。
いつも小言を言われているタローはさぞ不満に思っていることだろう。
「……おう。おかえり」
しかし、タローは別段怒ってはいなかった。
むしろその目は優しさすら感じるほどである。
「(^-ω-^)」
(訳:………………………………)
プーも目を閉じて何かを察している様子。
「………………ん?」
明らかに10分前と今とで対応というか雰囲気が違う。
そのことに気付かぬほどタマコは鈍感ではない。
「なんじゃ? 何かあったのか?」
タマコは自分がいない間に何かあったのではと考えた。
心配しての問いかけであったが、タローとプーは顔を背けるのみ。
「いや、別に……な?」
「(^-ω-^;)」
(訳:えぇ……別に、ね?)
なかなか口を割らないタローら。
そんな態度を取られているタマコは、段々とイライラを募らせていった。
「なんなのじゃ。言いたいことがあるなら言えばよかろう!」
タローとプーは背けていた顔を漸く前へと向ける。
その後タローはプーに「お前が言えよ」と肘で合図を送るが、プーも(訳:そこはタロー様が)と押し付けあった。
数度のやり取りの後、タマコが痺れを切らしたので、仕方なくタローが言うこととなる。
「いや……あのさ……その――」
「怒らんから言ってみろ」
「……じゃあ遠慮なく」
まだ少し言い淀んでいたが、タマコが促すとタローは安心して口を開いた。
……いや、安心しすぎてストレートに言ってしまった。
「お前が長かったのって、ウンコだろ?」
「…………え?」
「朝ごはん食べた後トイレ行ってなかったろ? いつも行ってるのにさ」
「…………まぁ、そういう日もあるじゃろ」
「いや~、なんか長いなと思ったんだよ! このタイミングで行くのなんてウンコしかないもんな!」
めっちゃ笑顔で言うタロー。
そんな男にタマコは――
「……いや……違うけど?」
否定はするものの、その眼は泳いでいた。
それはまるで図星を――
「いやいや、違うなら顔こっちに向けろよ」
「……別に背けてないし」
「思いっきり後ろ向いてんじゃねーか」
「こっちが本来の首の位置なのじゃ」
「いや流石にその嘘には騙されねーよ?」
押し問答が続く中、先に折れたのは――
「――~~~~っっうるさぁぁぁーーーい! 別にいいじゃろぉーが! 私だってウンコしても!」
勢いよく顔を向き直し怒鳴り散らすが、顔色は真っ赤であった。
おまけに肩もプルプルさせ、恥ずかしさと怒りのダブルパンチである。
「ウンコしないヒロインなんていないからな!? 皆が好きなアイドルも女優も声優もキャラクターも、みんな裏ではウンコし・て・る・ん・じゃ!」
「お、落ち着けよ。な?」
完全に我を失ったタマコを何とか宥めようとするが、もうどうにかできるレベルではなかったようで……
「別にウンコしたことなんて俺は何とも思ってねーんだ。
……ただちゃんと手洗ったのかなって思っただけだ」
「汚ねぇか? 臭うのかオイ!」
「バカヤロー! 汚ねぇに決まってんだろーが!」
「やっぱり汚いって思ってるんかい!」
タローは素直である。だから基本的に本当のことしか言わない。
それは長所にもなり短所にもなる。
そして今回は最悪の短所になったようだ。
「だいたいタマコが言えって言ったんだろーが!」
「もうちょい気を使えって言ってるのじゃ!」
「だから使っただろーが!」
「あんな隠し方されたら気にしたくなくても気になるわ!」
最初こそ討論を続ていたが、とうとう取っ組み合いの喧嘩へと発展してしまう。
タローはタマコの髪を掴み、タマコはタローの頬を引っ張る。
「(`・ω・´;)」
(訳:ど、どうしたらいいんでしょうか!?)
止めたいが割って入れば自分も巻き込まれることが目に見えている。
だが何とかせねばと画策するのも束の間、タマコがタローに馬乗りになった。
そのままタマコは殴り掛かる。
「こんな恥ずかしいこと魔王になる前もなかったわ!」
「だから気にしてねーって言ってんだろ!」
顔面に拳が迫るものの、それを簡単に片手で受け止めるタロー。
正直辺りに拳の風圧が飛び散っているのだが、そんなことなどお互いに気にしていない。
というより気付いていない。
「(´・ω・`;)」
(訳:こ、このままでは……)
徐々にプーも焦りが出てくる。
仲間割れで戦線離脱などしたら明らかにそっちの方が恥ずかしいことになる。
それだけは何とか止めなければならない。
だが、そこで思わぬ救世主が現れた。
「……なにしてるのマリア~?」
「あ、あわわわわ~~~//」
「「――へ?」」
耳に届いた声は二つ。
一つは妙に艶めかしい声。
もう一つはビックリと恥ずかしいが合体したような声だ。
タローとタマコが同じ方向を向くと、そこに居たのは――
「やっほ~マリア~♡」
「……ど、どどどどどうも、こんにちは!」
笑顔で手を振る魔王――リアム=エリス=アメジスト。
その横には申し訳なさそうに腰を何度も折る聖女――シャルル・フローラル。
突然の登場に瞼を何度も瞬かせるタローとタマコ。
「(^・ω・^;)」
(訳:あ、よかった~。喧嘩収まって)
だが、タローとタマコがようやく手を止めたことに安心して、エリスとシャルルに全く気付かないプーであった。
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