第48話 レヴィアタンの予感

 アキラ・アマミヤによるタロー襲撃。

 そして返り討ちに会う+一か月謹慎という事件の一報は、他のSランク冒険者の耳にもすぐに届いた。



 ――タイタン近くの山にて――


「ギャハハハハハ! アキラさんやられたんッスか」


 その一報を聞いたSランク冒険者のラン・イーシンは腹を抱えて大笑いした。

 目に涙を浮かべ、足をバタバタと動かして、口を開けて嘲笑わらった。

 別にアキラと仲が悪いわけではない。

 ただ自分から意気揚々と挑んで、負けた挙句に謹慎をくらったのが面白かっただけだ。

 大爆笑するランを見て、肩をすくめるのは一人のダークエルフの少年。


「ラン。行儀が悪いよ? それに、他人のことを馬鹿にしちゃいけない」


 その少年、魔王リッカ=ジード=エメラルドは優しくランを諭す。


「ん~~~~~♡ ごめんッス、ジーく~~~~ん♡」


 少年の姿を確認すると、ランはジードに向かって猛ダッシュ。

 勢いのまま抱き着き、少年の唇にブ熱いキスをした。


「チュ~~~~♡♡」


 それはそれは長いキスであった。



「――……~~~~~ッぷはッッ!」



 ようやく解放されると、ジードはヤレヤレと嘆息する。


「ラン。キスしてくれるのは嬉しいんだけど……こう、もっと優しくしてくれないかな?」


 ジードも愛する人からのキスは嬉しいが、毎回毎回窒息寸前になるので命がけであった。

 死因がキスによる窒息死では、魔王としてどうよ? ってもんである。


「うーーーん……わかったッス!」


 少し残念そうであったが、ランは分かってくれたようだ。


「こういうキスは夜だけにするッス!」


「いや、そういうことじゃなくって!」


 あんまり分かってなかったようだった。

 もう一度説明しようかと迷ったとき、ランにとっては邪魔者が、ジードにとっては助け船がやってきた。

 それが空に現れると、奇声をあげながら獲物に狙いを定めた。

 もちろんそれはランたちのことである。


「むぅ~~! いい所で邪魔するッスね!」


「邪魔っていうか、あれが目的なんだけどね」


 ランたちの上空にいるのは鳥獣系モンスター。


<アナザーコカトリス>

 普通のコカトリスと色が違い、体格は10倍以上大きい。

 毒性は弱いが、強靭な爪と範囲内の敵を昏倒させる鳴き声を発する。

 討伐ランクはAに分類されている。


 そんな怪物を前にしても、ランとジードは意にも介さない。

 当然だ。

 二人にとっては、格下もいい所なのだから。


「倒すのは可哀そうッスけど、街の人に迷惑がかかるんで……申し訳ないッス!」


 直後、ランの身体が天高く舞う。

 アナザーコカトリスも一瞬のことに対応が遅れる。


「行くッスよ――部分変化ヘンシン!」


 掛け声に合わせて、ランの右腕が変化する。

 その腕は、キング・オーガの腕だった。


「おりゃああああああッッ!!」


 そのまま力いっぱいに殴りつけると、アナザーコカトリスは巨体を急降下させた。


「あとは頼むッスよ、ジー君!」


「ああ。任されたよ」


 アナザーコカトリスが落下している最中、ジードはゆっくりと剣を抜いた。

 手に持ったのは青龍刀だ。

 それを逆手に持って構えると、刃に蒼い雷が纏われる。


「――嫉妬の魔剣レヴィアタン青龍之雷せいりゅうのいかづち


 落下するアナザーコカトリスに向かって、ジードは高速回転しながら魔剣を振るった。

 刃が体に触れた瞬間、全身に雷が昇る。

 瞬く間にアナザーコカトリスは丸焦げになり、絶命した。


 ドシィィィイイン!! と大きな体が地面に激突する。

 ジードは嫉妬の魔剣レヴィアタンをしまうと、少し遅れてランが着地した。


「さすがッス! ジー君!」


「ランもね」


 互いに抱きしめあい、二人はアナザーコカトリスからドロップ品を回収し、タイタンへと帰る。



 ***



 帰りの道中、ランはジードに訊いた。


「ジー君は、クロスさんがやられて何か思わなかったッスか?」


 ランは同じSランクのアキラがやられて笑ったが、正直興味もあった。

 Sランクは冒険者の中の最高位。

 その中の一人を倒した奴は、どのくらい強いのかと。

 ジードも魔王だ。

 同じ魔王であるクロスが、マリアに負けたのは知っている。

 魔王はモンスターの頂点。

 ジードにも、自分と同じように興味があるのかと思って訊いてみた。


「……正直な話、興味はあるよ。

 いや、ずっとんだ」


「あった?」


 ジードは首を縦に振ると、話をつづけた。


魔王ぼくたちは、互いに戦いあったことが無い。クロスみたいなのもいるけど、基本的に不干渉を貫いていた。別に禁止もされてないんだけどね」


 禁止されていない。

 そのはずだったのに、魔王は確かめたことが無かった。


 魔王の最強は誰なのか? という疑問を。


 そしてそれは、Sランクも同じであった。


「自分たちは冒険者同士で戦う、というか私闘は暗黙の了解で禁止されてるッス。

 ……けど、戦ってみたいとは思うんスよね」


 中が悪いわけではない。敵対しているわけでもない。

 でも、知りたい気持ちもある。


 Sランクの最強は誰なのかを。


「……何の偶然かは分からないが。7柱の魔王が、7人の人間に使い魔として仕えた。

 同じ時代、同じ世代で……。


 ――もしかしたら、始まるのかもね……」


「何がッスか?」


 魔王ジードは星空を見上げ、目を細める。


「今までにない、最大の祭りイベント、さ」

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