第45話 いやぁぁああああ゛あ゛!!!!

「タマコのやつ……どこ行ったんだろ?」


 川辺で強襲してきたSランク冒険者の一人、アキラ・アマミヤとの激闘を終えたタロー。

 そのアキラを背に担ぎ、現在タマコと合流するため来た道を戻ろうとしているのだが……。


「ん~……なんかこの辺を通ったような通ってないような……?」


 基本的に方向感覚が狂っているためか、来た道がわからないという状態であった。

 わずかな記憶と野生の勘を頼りに突き進んではいるが……。

 悲しいかな、どんどんタマコとの距離は離れていた。


「……プーさん覚えてる?」


 剣からクマのぬいぐるみ姿になった怠惰の魔剣ベルフェゴール(あだ名プーさん)に尋ねてみるが、


「(´・ω・`)」

(訳:すんません……覚えとらんのですわ)


 悲しいかな、魔剣ペット持ち主飼い主に似るのであった。

 こうなると最終手段の"見つけてもらうまでジッとしてる作戦"、またの名を"他人任せ"を実行しようかと考えた時だった。


「べおえあがあああ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!!」


 突如として森に響いた断末魔のような叫び声。

 こんなのが聞こえたら走って叫んで逃げ去りたくなるが、生憎とタローにそういうのは効かないのである。


「タマコかな?」


 躊躇なく音の方へと歩を進めたのであった。



 ***




「はぁ、はぁ……」


 今までの鬱憤を全て晴らすように、全ての力を込めた渾身の一撃は魔王クロスを容易に夢の中へといざなった。

 そんな状態でもとどめを刺さないのはタマコのせめてもの慈悲である。

 まだクロスに対して怒りはあるが、いつまでも引きずるわけにもいかない。

 目をつむり心を落ち着かせていると、いつもの暢気な声が聞こえてくる。


「あ、タマコいた~」


 姿を確認したタローが駆け寄ってくる。

 先ほどまで気色悪い魔王と話していたせいか、タローの声と姿が妙に心を落ち着かせた。

 安心しすぎてタローの頭を撫で始めた。おそらく癒されたかったと思われる。


「……なんで頭撫でてるの?」


「……ちょっと色々あったんじゃよ」


 答えになっているのかわからない返答だが、タローは「そっか~」と納得した。



 ***



 一しきり堪能したところで、お互いに状況を確認することにした。

 タローはアキラとの戦いを。タマコはクロスとのひと悶着を話した。

 タマコの過去を聞いたタローは「大変だったんだね」と言うと、頭を撫で返した。

 タマコは照れるでもなく怒るでもなく、されるがままであった。


「てかこの人たち治療しないと」


 撫でるのをやめたタローが地面に寝かせているアキラとクロスを見て言った。

 タマコは少し名残惜しそうだったが、すぐに気持ちを切り替える。


「クロスはどうでもいいが、こっちの冒険者はヤバそうじゃのぉ」


「ヤバいのか?」


「もうすぐ死ぬかもしれんぞ」


「死ぬッ!?」


「Σ(^◎ω◎^ノ)ノ!」

(訳:えぇーー!?)


 タローは慌ててアキラを担ぎ街へ運ぼうとするが、それをタマコは止めた。


「待て待て主殿。そいつはお前の命を狙ったのだぞ? 放っておけ」


 タマコの言うことは正しい。

 命を奪おうとした相手である。返り討ちにあうのは自業自得。

 ましてや襲われた側に助ける筋合いなど無い。


「勝ったのは俺だ。生かすも殺すも自由なら、俺は生かす!」


 タローは迷いなく答えた。

 敵を哀れんでいるわけでも、同情したわけでもない。

 ただ――生きてほしいだけだった。


(甘いのぉ……そこがいい所でもあるがな)


 タマコは少しだけ微笑む。


「――私が連れて行こう。音速で飛べば間に合うかもしれん」


「さっすが!」


 頼んだぞ。とタマコにアキラを託した。

 タマコが移動しようと魔法を発動しようとした――が、アイツが目を覚ました。



「マ~~~リ~~~~ア~~~~~~ッッ!!!!」



「「え?」」


 振り向いた先で、クロスが突然起き上がった。

 腕は使わず足の力だけで立ち上がる姿は、気持ち悪く不気味で、何より気持ち悪い。

 リッチというよりゾンビである。


「おば、え……が…………欲じいぃぃいいいい゛い゛~~~~~~っっ!!!」


 狂気的な愛の告白クレイジーラブコールを受けたタマコの背にゾッと悪寒が走る。

 関係ないタローですら身震いした。


「お、おいタマコ……欲しがられてる、ぞ?」


「もうマジで勘弁しろ! 何回鳥肌たたせりゃ気が済むんじゃ!?」


 どうしていいか戸惑うタローに、頭を抱えるタマコ。

 白目を向けて愛を叫ぶ魔王。

 というかよく見ればクロスはまだ完全に覚醒してはいなかった。

 タマコへの強い愛で無意識に叫んだようである。


「いやどっちにしろ気持ち悪いわっ!」


「(;^・ω・^)」

(訳:アイツ、ヤベェ奴だぜ!)


 一様に騒ぐ中、更に状況は混沌を極めだす。

 タマコを欲しがるその強欲に、魔剣が反応したのだ。

 強欲の魔剣マモンに禍々しい魔力が溢れ出す。


「マ゛リ゛ア゛ッッ!!!!」


 クロスは強欲の魔剣マモンを構え戦闘態勢に入る。

 タローは咄嗟にプーを棍棒に変身させ身構えた。

 タマコも黒弦刀を手に取る。


「タマコ! 速攻で終わらせてアキラこいつ連れていくぞ!」


「あぁ、私もそのつもりじゃ!」


 もはや一触即発。

 もう一度、魔王同士の激突が始まる――かと思われた。




「――フフフッ、貴方の負けよクロス」




 音もなく、突然とクロスの横に現れたのは、金髪に赤い眼をした女。

 クロスの首元に唇を近づけ、少しだけ噛みつく。

 すると、クロスは今度こそ完全に意識を失った。

 倒れるクロスを横目に、長い金髪をなびかせる。


「は~、やっぱりアンデットは美味しくないわね~」


 そう愚痴をこぼす女は、ゆっくりとこちらを向いた。

 タローは「だれ?」と首をひねる。

 その横では、タマコが口を開けて驚愕の表情を浮かべていた。


「エ、エ、エエエエ、エリスぅ!?」


 狼狽しながら、その女の名を叫んだ。


「久しぶり、マリア♡」


 その女――魔王リアム=エリス=アメジストはニッコリと微笑み、こちらに手を振った。

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