第36話 Sランクと魔王(1)
ギルド本部は異様に包まれていた。
その場にいた冒険者は恐れ逃げ出し、受付嬢も部屋の奥に引っ込んで出てこない。
今いるのはギルドマスターであるドラムスだけだ。
そしてドラムスの前にいるのは3人の冒険者と――3柱の魔王。
3人と3柱は周りの目など気にも留めずに寛いでいる。
「おいドラムス! さっさと要件すましてくんねぇか? こちとら暇じゃないんだよ」
椅子に乱暴に座りながらドラムスを睨みつけるのは、6人の
――アキラ・アマミヤ――
耳や鼻にピアス。ネックレスに指輪。
全て純金と純銀でできた高価なアクセサリーだ。
「ヒッヒッヒ……臆病な人間たちだなぁ……退屈でしょうがない」
アキラの横で遠目から見る人間を見つめるのは、アキラと契約を結んだ魔王。
――ハンター=クロス=トパーズ――
【
海賊衣装に身を包んだ魔王である。
ガラの悪い冒険者はいるが、アキラはその中でもトップクラスだ。
そんなアキラに、容赦なく指摘する者がいた。
「ちょっとアキラさん、目上の人に失礼ッスよッ! ちゃんと敬語使ってくださいッス!」
チャイナ服に身を包んだ活発な少女。
――ラン・イーシン――
体育会系の熱血という言葉が彼女にはよく似合う。
「あ? テメェ俺に指図すんのか!?」
「指図じゃねーッス! 常識ッス!」
「うるせぇぶん殴るぞッ!」
よもや一触即発の場面。
だが、それを止めたのは一人の少年だった。
「ランに手を出すなら許さないぞ?」
見た目は少年、しかしその目に宿る殺意が、彼が魔王であることを理解させる。
――リッカ=ジード=エメラルド――
【
一見すると後ろ髪を三つ編みにした可愛らしい少年だ。
そんな魔王にランは
「キャー! ジー君カッコいいッッ!!」
ベタ惚れであった。
抱き着き頬ずりしながらイチャイチャする姿にアキラも戦意が失せる。
「ケッ」と椅子に座りなおすと、横から女が声をかけた。
「フフフッ、坊や可哀そうに。せっかく暴れられるチャンスだったのにねぇ~」
笑いながらアキラを励ましているのか揶揄っているのかわからない女。
金髪に赤い目。大きい谷間と煽情的な腰の括れが印象的なソイツは、魔王の一柱。
――リアム=エリス=アメジスト――
【
「なんだ、お前が相手してくれんのか?」アキラはエリスを煽り返す。
「ごめんね。夜の相手は君じゃまだ早いかな?」
「そっちじゃねぇよクソがっ!」
結局揶揄われたアキラは、もうそれ以上言わなかった。
「ちょ、ちょっとエリス……あんまり人を怒らせたら駄目だよ……」
オドオドしながらエリスを止めるのはSランク冒険者。
――シャルル・フローラル――
エリスの使い魔としての主である。
その主に注意されたからなのか、エリスはすぐに謝った。
「わかったわよ~。むっつりシャルル」
「む、むっつりって言わないで! ていうかむっつりじゃないから!」
顔を赤くしながら必死に否定するシャルル。
どうやらエリスに謝罪の意思はなかったようだ。
「な~に言ってるの~。こんな立派に育ったおっぱいしてるくせに~」
シャルルの胸をつつくと、ポヨンポヨンと揺れた。
「ちょ、ちょっとー!」
「アハハハハハッ!」
笑いながら逃げるエリスをシャルルは顔を真っ赤にしながら追いかける。
走っているせいで、また大きな胸が揺れていた。
やりたい放題の自由な空間。
まるで幼稚園ではしゃぐ子供だ。
と、そこに一括する声が響いた。
「いい加減にしろお前ら!」
声の主はギルドマスターのドラムスだ。
さすがはギルドをまとめる存在である。
その一言で癖のあるSランク冒険者は動きを止めた。
「?」
「っす! すいませんっす!」
「……ご、ごめんなさい」
いや、3人の冒険者はドラムスの声に止まった――わけではなかった。
「いつもビビってるくせに、どうした?」
先に疑問を口にしたのはアキラだ。
確かに今までSランクの冒険者である自分たちが来ると、ドラムスは上の立場とは思えないほどビビっていて、敬語を使うほどだった。
6人のSランク冒険者の間では、ドラムスはただのお飾りだという印象でしかなかった。
それが、今は3人しか居ないとはいえ、自分たちに指図したのだから冒険者は面を喰らったのだ。
アキラの問いに対してドラムスは、
「……あぁ、お前らがいない間に色々あったんだよ」
と、どこか遠い目をしていた。
「なにかあったんッスか?」
少し心配そうに訊くラン。
「いや、何でもないよ」とはぐらかした。
そして話を本題へと移す。
だが、その前に確認せねばならないことがある。
「Sランクの冒険者は全員集合だったはずだが、他の3人はどうした?」
Sランクの冒険者は6人。
だが今いるのは3人だけだ。
それに答えたのはシャルルだ。
「えっと……"アリスちゃん"と"レオンさん"と"ムサシさん"は……面倒なので来ないそうです」
それを聴いてため息をつくドラムス。
「まぁしょうがないか……」
相手は癖のある連中だ。
ツッコんだら負けである。
(そういや、アイツも癖だらけだったな)
そのとき頭の中に、死んだ魚の目をした冒険者の顔が浮かんだ。
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