第10話 育成計画
街は歓喜の渦に包まれた。
害獣――<死霊鳥:ファントム・スカル・バード>の来襲。
しかも、ただの死霊鳥ではなく、超ビッグサイズの害獣。
後に、<死霊大鳥:ファントム・スカル・ギガバード>と呼ばれた大害獣。
相当な被害が予測されたが、
結果は被害者0という奇跡で、この大災害は終息した。
その奇跡の立役者である一人の冒険者、タロー。
これから彼にはその功績から莫大な報酬が払われ、勲章ももらえることだろう。
***
「報酬は――10万Gだ!」
ギルド本部、ギルドマスターの部屋でタローは今回の報酬額を聴かされた。
あれ?
莫大な報酬じゃなかったの?と思う方もいるだろう。
実際その通りで、国からは億を超える報酬と名誉ある勲章が送られるはずであった。
しかし!
それを断ったのである。
タローではなく、何を隠そうドラムスが、だ。
本当ならドラムスも一緒にタローを讃えてあげたかったのだが、これには訳がある。
それは第9話の冒頭のタローの言葉である。
あ、ごめんね。ちょっとメタな発言だけど許して。
話を戻して、その発言とはこれだ。
『そろそろ貰った20万もなくなってきちゃってさ~。
なんかバイトある?』
いっけんタローらしいセリフではあるが、ドラムスはここで彼が来なかった理由をきちんと理解したのだ。
――"コイツは、ある程度お金が貯まると働かなる"、と――
ドラムスはタローに冒険者としてこれからも活躍してほしい。
そして彼には冒険者としての才能がある。いや、ありすぎる。
タローの怠惰な性格さえ何とかしてしまえば、間違いなくSランク――いや、それを超える逸材になると確信した。
そのために必要なのは、"
タローの冒険者ランクは現在"D"。
彼はまだ依頼を2つしか達成していないのである。
そしてCランクに上がるには、依頼を20個こなす必要があった。
タローの実力を考えればAランクからスタートしても問題ないとは思うが、どんな身分でも実力でも、皆と同じルールでランクアップするのが冒険者の掟であった。
こうした背景があるため、タローのようにお金が貯まると働ないという方法ではランクアップに時間がかかってしまう。
そのため、ドラムスはあえて報酬を少なくして、タローが働くスピードを上げようとしているのだ。
ちなみに本当に払われるはずのお金は、ドラムスがこっそり作ったタローの通帳に貯金してある。
タローがきちんと働くようになったら通帳を渡すつもりだ。
幼少期の自分のお年玉を親に渡したら全額ブランド品に使われた経験から、ドラムスは絶対に他人のお金をネコババしないと決めているので、その辺も心配ない。
あ、ネコババって漢字だと"猫糞"って書くんだぜ?
これ豆知識ね。
それともう一つ余談だが、タローが国を救ったというは住民には隠してある。
これはタローの今後の冒険者活動に支障をきたさないためだ。
そんなことなど知らないタローは、
「ありがと~」
お礼を言って笑顔で10万Gを受け取っていた。
普通なら「報酬少なくね?」となるところだが。
そこは
さぁ、ここまではドラムスの予想通りに事が運んでいる。
ドラムスは以前から『タロー最強冒険者育成計画』なるものを完成させていた。
これには、ドラムスの考えたタローが最強の冒険者になるための依頼を10個を厳選してあるのだ。
1から順に依頼をこなしていくと、Aランクへの道のりが容易くなるのだ。
1か月の待ちぼうけを喰らったので、フラストレーションはMAXである。
さぁ今こそ、成果を見せるときだ!
「タロー」
「へい?」
「"使い魔"に……興味はないか?」
「
ドラムスの計画は5秒で散ったのであった。
「ああごめん! 言い方悪かったか! ちょっとかっこつけただけなんだわ! だからお願い…話だけでも聴いてくれぇぇぇぇぇええええええ!!!!!!!!!」
半べそ掻きながら止める
***
お互いにソファに腰かけ、対面に座る。
以前のように受付のお姉さんにジュースをもらい、嬉しそうに飲むタロー。
ちなみにこの受付嬢だが、タローが街を救ったのを知っている数少ない人物で、タローを見る目が最近熱いのはドラムスの勘違いであってほしいのだが、これはまた別の話でしよう。
受付嬢が扉を閉めて出ていく。
扉の向こうから「タローくん可愛いわぁ……」という呟きが聞こえてきたが、タローはジュースに夢中で気付いていなかった。
とまあそんなことは置いておいてドラムスは本題に入る。
「使い魔に興味がないかとは訊いたが、本音としちゃあお前さんには、是非とも使い魔と契約してほしい」
「なんで?」
「お前さんの冒険者ランクは現在Dランク。Cに上がるには依頼を20個達成しなければならないんだ」
「うぇー、面倒だね」
俺ずっとDでいいかも。とまで言い出すタロー。
だが、これはドラムスにとっては予想の範囲内だ。
「気持ちはわかるがタロー。このままだとお前――楽して稼げないぞ?」
「……えっ?」その言葉に固まるタロー。
ドラムスは続ける。
「お前さんが最初に受けた依頼はAランクだった。だが、本来ならDランク冒険者はCランク以上の依頼は受けられない規則になってるんだよ」
これは嘘ではない。
最初の方こそドラムスのミスや緊急事態でAランク以上の事案を解決していたタローだが、あくまでもそれは例外である。
本来ならタローは受けることができないのだ。
「Dランクが受けられる依頼は3000G~20000Gの報酬が一般的だ。しかし10000G以上の依頼は滅多に来ないから、Dランクは3000Gから7000Gくらいの報酬の依頼を週に5回達成しなきゃいけないんだよ」
「しゅ、週5…!?」タローは戦慄した。
「しかも場合によっては実力じゃなくて運が作用する依頼もある。失敗も含めれば、最悪週7ってこともあるぞ」
「なん……だと……」
「何で死神代行風なのかはわからないがそういうことだ」
ドラムスは嘘は言っていない。
全てが事実であった。
タローは目に見えて落ち込んでしまっている。
「週7? ふざけんなよこちとら休まないとやってらんねぇんだよ。バカかよ。どうせ俺たち社員には休むなとか言っておいて上司のお前らは夏休みバンザイしてんだろぉが。休むなっていうくらいだったら
「タロー?落ち着け! おい大丈夫か!?」
タローが病みだしたので、ドラムスはすぐに追加で説明をした。
「タロー! いいか、その失敗を避けるための使い魔なんだよ」
その言葉にタローは「え?」と反応する。
「Dランクの依頼の多くは"採取"だ。あとは簡単なゴブリン討伐くらい。
使い魔がいると採取のときの発見率が高いし、戦闘でのサポートがあって仕事も楽にこなせるようになるんだ」
「……仕事が楽になるの?」
「そうだ。どうだ? 使い魔欲しいだろ?」
ドラムスの問いにタローは「ほしい!」と目をキラキラさせて答えた。
「よし!」と言うと、ドラムスは地図をタローに渡した。
「使い魔にするんだったら有能で
この地図の、この《ビーストウォー・マウンテン》という場所なんていいと思うぞ」
「わかった。行ってみる!」
タローは珍しく気合を入れていた。
ちなみにこの《ビーストウォー・マウンテン》だが、
ぶっちゃけAランクパーティーでも余裕で死ぬ可能性のある危険地帯である。
そこにいるモンスターは、ワイバーンやフェンリル・キッドといった準伝説級のものばかり。
だがドラムスはタローならこのくらいなら余裕だろうと考えていた。
無論、それは間違いではないのだが…。
かくして、ドラムスの作戦通りに、タローは自身の育成計画の1つ目を達成しに行くことになった。
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『タロー最強冒険者育成計画』
1つ目
{ユニコーンの角の採取}
難度A
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