第9話 希望

 かつてない危機が迫るタイタン。

 打つ手もなく、街の住人たちも諦めかけていた。

 中には遺書を書く者や、発狂する者たちまで現れてくる。


「クソっ! どうしたら――」


 諦めかけていた時に、その声は聞こえてくる。

 こんな危機的状況でも暢気な男の声。

 だが、それは絶望を退ける可能性を持つ者の声だ。


「そろそろ貰った20万もなくなってきちゃってさ~。

 なんかバイトある?」


 希望タローは現れた。




 ***




「時間がない、聞け」


 ドラムスはすぐに状況を説明する。

 一通り話し終えるとタローは「そりゃ大変だ」と感想を漏らす。

 そして最後に「まー何とかやってみるよ」と言った。

 普段ならきちんとしろと言いたいところだが、ドラムスにはこれが何よりも頼もしく感じた。



 ・・・・・・・・・


 ・・・・・・・


 ・・・・・



 ドラムスは東の方に向かうよう指示したが、


「東ってどっち?」

「東は西の反対だ」

「西ってどっち?」

「もういい! 俺が案内する!」


 といった会話があり、仕方なく自分で案内をした。

 というわけで現在二人はタイタン東にある壁の上に来ていた。


「で、デケェな……」


 ドラムスは戦慄した。

 遠目からでもわかる巨体。

 あんなのが地上に落下すると思うと身の毛がよだつ。

 そんなドラムスのところへ、国の兵がやってくる。


「現在も大砲での攻撃を試みていますが、撃墜できる様子はありません!」


 そういう兵の足は震えていた。

 命が危険にさらされているのだ。仕方がない。

 残り時間、推定1分。

 もう本当に時間がない。


 全ては一人の男に託されていた。



 ***



 タローは静かにそのモンスターを眺めていた。


(大きい鳥だなぁ……)と未だ暢気でいる。


「落下まで1分! 時間がありません!」


 その言葉を聴き、タローはようやく攻撃を仕掛けることにした。

 と言っても、空中にいる相手にどう攻撃すればいいかまでは思いついていない。


 近づいてきたところを攻撃?

 いや、無理だな。高いところまで来たけどそれでもまだ上空を飛んでいる。

 ジャンプすれば届く?

 もっと無理。そんな超人じゃないし。



 じゃあ、どうしようか?



 打つ手を考えていると、横から大きな音が聞こえてくる。

 どうやら兵が大砲を乱発しだしたようだ。

 おじさんドラムスは「やたらめったら撃っても変わらん」と言っている。


 でも、タローは思った。


(あ、




 ***




 兵がパニックになって大砲を乱発する。


「落ち着け! やたらめったら撃っても変わらん。弾の無駄だ!」


「じゃ、じゃあどうしたらいいんですか!?」焦る兵たち。


 正直、俺もこうなったときいい案が思いつかなかった。

 本来ならここでゲームオーバーだと諦め、死を受け入れるのだろう。

 ――だが、今はこの状況を打開できる者がいる!


(俺はコイツに全てを賭ける!)


 ドラムスの諦めない気持ちに神が味方したのか――


 はたまた、この男の気まぐれか――


「それ、ちょっと貸してくんない?」


 希望タローが動いた。


「あ、え?」兵は戸惑う。

「その、大砲の。撃ってるやつ」気にせず要求するタロー。


 タローが言っているのは大砲のである。

 戸惑って動かない兵に代わり、ドラムスがタローに大砲の弾を渡した。

「頼むぞ!」ドラムスは全てを託した。


「サンクス」というと左手で弾を弄びながら、ちょうど死霊鳥の正面に来る場所へ立つ。


「小学校の頃さ、友達によく助っ人頼まれてたんだ――」


 そう言うと、弾を真上へ投げた。

 死霊鳥はその間、加速モードに入り、落下スピードを上げた。



 ――残り時間は推定20秒――



 兵たちが絶望に覆われる中、一人の男の声だけが聞こえる。


「けっこう、得意なんだよねぇ――」


 兵たちも、ドラムスもその眼にはタローが映っていた。



 そして、奇跡を見る。



 左足を前に踏み込み、


 落ちてきた弾を、


 持っていた武器で――



「バッティング!!」



 フルスイングした。



 打たれた弾丸は、超高速で移動していく。

 その速さは、大砲で撃った速度より遥かに速く――


 大砲の威力より、すさまじかった。


 弾丸は、加速する死霊鳥の眉間を捉える。

 そして、そのまま脳天を貫いていった。


 弾丸が貫通した死霊鳥は、そのまま街へと落下する。

 街では皆が一様に叫び、絶望する。


 だが地面へと着く直前に――死霊鳥は絶命した。


 身体を無害なガスへと変化させ、その際に激しい突風が街に吹き荒れる。



 風が止まると、自分が生きていることに気付いた住人達。

 最初は戸惑っていたが、だんだんと理解し始める。


 自分たちは助かったのだと



「「「「わああああああああ!!!!!」」」」



 もうダメかと思われた命。

 だが、住人たちは自分たちが生きていることに喜び、打ち震えた。


 国家滅亡の危機。

 だが、奇跡的に死者負傷者ともに0でこの異常事態を終えた。


 国の外壁からは人々が喜ぶ姿がよく見えた。

 そこにいた兵たちも、自分たちが生きていることに喜び、抱き合っていた。

 けど、すぐに涙を拭き一人の男に向き直る。


 この国を救った希望ヒーローへと


 その男は、人々が喚起に沸く光景を見ると、武器を肩に乗せて、トントンと叩いきながら


「よかったよかった」と、小さく笑った。


 その姿を見たドラムスは確信した。




 ――この男は最強の冒険者になる、と――

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