音のない
龍川嵐
第1話 身体の交換
僕の名前は翔だ。僕は足が遅いが、走るのが好き。
走るのが好きで、陸上部に入った。しかし、自分が出場したい大会に出場してもらえなかった。出場してもらえない理由はわかっている。なぜなら、陸上部の中でもっとも足の遅い生徒だった。
足が遅いとわかっているけど、どうしても大会に出場する夢は諦めきれなかった。部活終わりの時間になると、他の生徒は帰る。僕だけ残して、自主練をした。何度もダッシュして、動画を撮り、走るフォームを分析をする。寝る時間を削って、筋トレをした。
毎日続いたせいで、自分の体がボロボロになり、体が悲鳴をあげているのに僕は無視をした。そのままトレーニングを続くと、突然、視界が朦朧し始めた。今僕がいるのは、土手だ。倒れないように踏ん張るが、朦朧が悪化して視界がぐるぐると回った。
気持ち悪すぎて、千鳥足でそのまま土手から倒れた。草のカーベットの上に仰向けにして、点と点がたくさん集まる天川を眺めると、意識が失った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おい、起きろ、翔さん。起きろ、起きろ・・・」
何度も僕の名前を呼ばれている。しかも「起きろ」という言葉を何度も繰り返した。なんだと耐えきれなくて瞼を開けた。
「うるさいわ…え?」
あれ?ここってどこなの?
僕の目に映っているのは、真っ白。しかも壁はない。いや、壁がないというよりここからだと見えないくらい遠く離れている。
「ここはどこなの…?」
そう呟くと、突然後ろに話しかけられた。
「こっち、こっちよ」
声が聞こえた方に振り向いたら、僕と同じくらい年齢の少年が片膝立ての座り方で座っている。
「オメエ、誰なの?」
「おっとと、失礼しました。僕は朔太郎です。実は足が速いが、僕は耳が聞こえないために陸上部に入部できませんでした。そして、運悪く事故に遭い、生涯を閉じてしまいました」
「そうだったか」
「はい、それでは本題に入ります。僕と交換しない?」
「は?交換?どういう意味?」
「あなたは、足が遅いですね。陸上部の中でビリでしょう」
「これ以上に言うと、まじで怒るよ?」
まあまあと手振りをしてから、続きの話を話した。
「だから、僕の足と、君の耳を交換しませんか?」
「僕の耳?不気味なことをよく言えるね」
「あなたの条件と僕の条件が合わないと成立ができませんよね。ちなみに僕は聞こえる耳が欲しいです。滅多にない美味しい話よ?僕の足を貰えば、あなたが日本一になれますよ?」
夢は夢のような言葉を並んで言っている。しかし、僕の耳と交換すれば、僕は足が速く走れるよな?と信じた。なぜ信じられない話を信じるの?それは、希望が強すぎるためだ。頭の中では足が速くなりたいしか考えていない。
速い足が欲しい…
「いいよ。僕の耳と交換してやる。代わりに君の足は僕のものだ」
彼は目を細んでニコッと笑った。
「喜んで、交換します。それではいつか会いましょう」
「何言ってんの?おい…」
言い途中に、僕の視界が少しずつ暗くなっていく。まるで壊れたテレビに出ている砂嵐のような景色だ。
気持ち悪すぎて、目を眩んだ。
地面に膝をつけ、そして、上半身が倒れた。
なんとか口だけ動かせた。
「くそ…ゆるさねぇ、朔太郎め…」
そのまま寝落ちをした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
重い瞼をゆっくりと開けた。なぜ僕は病院にいるの?
ベッドの周りに白いカーテンを引いている。
ああ、そうだ。僕がトレーニングの途中に倒れたよな、と記憶を遡った。
カーテンを開く音がした。誰?と振り向いたら、出てきたのは僕の母だった。
「×××●×××●●×××●●●××●●●」
????、え、何を言っている?
バッと僕の耳を僕の両手で覆い隠した。もしかしたら、さっき見た夢は嘘じゃなかったか?
夢の中で朔太郎の足を僕の耳と交換した。
その結果は今ここにある。僕の聴力を失った代わりに速い足を受け取ったか?
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