同じクラスの陽キャ美少女が義妹になって一つ屋根の下

将門八季

暇だから彼女をみている

 このクラスに美少女がいる。

 容姿が良くて、身長が高くて、どうやらモデルをやっているらしいその子は、なるほど確かに美少女である。

 

 そんな子がクラスにいるわけだけれど、しかし、クラスにいるというだけで別にそれ以上でもそれ以下でも僕とのかかわりはない。

 それでも僕が彼女を知っているというのは、それがただ、彼女が美少女であるからだろうか。


  ちなみに僕がモデルをやっているとかそういうのを知っているのは、いや決して、彼女が他の女子と話しているのを盗み聞ぎしているとかではなくて、というか同じクラス内にいたらいやでも耳に入るから、つまりそういうことだ。すごい言い訳のような言葉をつらつらと述べてしまったけど、実際そうだ。

 あとはそう、ちょっと彼女らの話している場所が近いからこう耳に入ってくるというか、そんな感じ。


「――でさ――なんだよね」

「わかる!――だよね~」 

 

 ほらこうやっている今も、彼女らの声が何となく聞こえてくる。

 ずっと机で本を読んでいる僕にとっては、こうやって彼女らの情報を聞いてしまうのは致し方ない……。

 

 うん。致し方ないな、本当に。なんだか変なことを考えてしまったせいで少し背徳感みたいなものを覚えてしまったけど、大丈夫、故意じゃないから。


 こほんこほん。

 何はともあれ。


 結局のところ言いたいことはこれだけ。


 僕のクラスに美少女がいて、モデルで――なんか、すげぇなぁって。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 彼女――桃山栞奈ももやまかんなが美少女であると語ったからといって、この僕――安土凛太朗あづちりんたろうがどうしたかといえば、特に何もしていない。

 ここまで美少女美少女といっておいて何を言っているんだと言われればその言い分は分からなくもないが、しかし聞いてほしいことがある。


 可愛いと好きは違うじゃん。

 可愛いからといって好きにはならないじゃん。

 恋愛感情を可愛いって理由で生んでいたら、全く以てきりがないことになる。

 

 何なら僕は大抵の女の子は割と可愛いと思うから、全員に恋愛感情を抱くことになる。なんて不純な感情なんだ。

 そんな僕はやはり彼女に恋愛感情を抱いていない。


 精々、時々目で追って今日もすげぇ可愛いなとか、今日は少しだけ髪の毛が跳ねてるなとか、制服の襟になんかついてね?あ、ご飯粒か、とかそのくらいだ。

 鑑賞?観賞?どっちだろう?どっちでもいいか。そういう目で彼女を見ることはあっても、それ以外の目で見ることはなかった。


 というか、そもそもの話僕が彼女を知ったのは彼女とこうやってクラスが一緒になってからだ。

 一年の頃は全く知らなかった。

 というか、あまり友達のいない僕はそう言う情報に詳しくなかったから、知る由もなかった。

 ……………。

 

 いや少し盛った。全く友達のいない僕の間違いだった。

 では言い直して、全く友達のいない僕は知る由もなかったのだ。


 それに部活にだって入っていない。部活に入れば先輩後輩の関係で色々な繋がりができたり、それこそそういう誰が可愛いだとか、だれがだれに恋愛感情を持っているだとか、なんなら誰が誰と付き合っているだとか、そういう話をしてこの学校の情報に詳しくなっていたはずだ。


 しかし残念ながら僕が知っているのは、僕のこの席からわかる桃山の情報くらいである。

 そう、桃山の情報。


「――えぇ~栞奈の胸やっぱおっき~!よこせ!それを私に寄越せ!!」

「わかる。身長も大きくて胸も大きくて、けしからないわまったく」

「え、えぇ!?」


 ……くっ。いったいなんて話を教室でしているんだ!

 女子高生よ、もう少し慎ましさを持ってくれよ!


 これでも僕は思春期男子だ。

 高校生とかいう思春期真っ盛り男子である。

 

 そういう話を聞いただけでいつも以上に耳の神経を研ぎ澄ませて、『別に聞いてませんよ、あなたたちの話なんて。胸?興味ないね。あんなの脂肪の塊じゃないか』なんてそ知らぬふりをしつつしっかりと聞こうとする準備が出来上がってしまったじゃないか!

 なんとなく机に突っ伏して、チラッと横目で見てしまっているじゃないか!!


「で、何カップなの、この胸は!どんなサイズの夢と希望が詰まっているのさ!!」


 お、おぉ!?

 それを教室で聞いてしまうのか!?

 デリカシーのかけらもないのかJK……?


 いや、僕も気になるけど。

 全然気にしてないを装いつつ、しっかり気になるけど。


 桃山の胸をチラッと見る。

 確かに大きい。身長も大きいが、それと比例するかの如く胸も大きい。しかし大きすぎるというサイズでもないような気もする。なんというか、彼女の体に非常にマッチしている……?でもとても柔らかそうだ(?)。

 そこから僕は若干下に目線を移した。

 

 スカートから机に座っている彼女のすらっとした足がのぞく。

 でも女子は分かっていないな。

 彼女は足も凄い綺麗なんだ。


 胸だって魅力的だが。足だって魅力の塊である。

 白く長い脚はやはりモデルといったところか、美という漢字がしっくりくるし、それでいて女子特有の健康的な、肉感的な素晴らしさがある。

 黒髪清楚……。ん、清楚か?普通に女の子って印象が一番似合うような気がする。


 桃山を知って間もないけれど、いまいちつかめない性格というか。

 仲間といるときはなんだか面白そうなキャラだし、男に話しかけられたときは少し冷たい時もあれば友好的なところもあるし、俗にゆう分け隔てなくとかそういうのではない、こうやって女子で集まって話をしているのを見ると、ん~。

 すごい。これだけ聞くと普通の女の子って感じだ。


 でも実際は後輩にも慕われていて、校内で桃山を知らない人はたぶんいない。

 僕が知らなかったのはまぁ、特殊というか、ただ陰キャなだけだからだろう。 


 僕は陰キャで桃山は陽キャ。

 ただそれだけだった。


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