第130話 無視を決め込めばいい

あらすじ 忍ドロは地中を追跡できない。


「行方不明になりましたが?」


 シズクは言う。


 シンがどこかに捕まった後で横取りする。そのために監視していた。肝臓十字軍に捕まえさせるつもりで潜入させれば、意外にも粘り強く忍者をやりきってしまい、予備案だった鳩の卵の魔女を誘導する作戦も失敗している。


「一時的に感知できないだけだ」


 しかし、クノ・イチは慌てた様子がない。


「サザンカとは別の強大な魔力が複数あの場所にあった。おそらくモンスターウィッチだろう。鳩の卵の魔女とは敵対するだろうからな。わたしが知らない間にずいぶんと強い魔女が現れたようだ……本気かもな」


「本気とは?」


 わかっている風だが、シズクは魔女絡みについて十分な情報を与えられていない。魔女の派閥についてさえ教えられていなかったのだ。


 忍者として戦い、場合によっては殺していた。


 その程度の認識しかない。


「言ってなかったか?」


「クノさんがボケてなければ」


 嫌味で返した。


「……怒っているのか?」


 流石に反応された。


「秘密が多すぎるんですよ」


 この際なので率直に告げておく。


「秘密を生業にする忍者を相手にそれを言うのか。国家公務員もわたしを利用して大したことを教えてくれていないと思うが……」


 クノ・イチは呆れた様子だった。


「法律に縛られて守秘義務まみれの私と、知る気になれば自分でいくらでも勝手に調べるクノさんを一緒のレベルで考えないでください」


 シズクは言い返した。


「わかった。教える。神の封印だ」


 クノ・イチは頷いて言う。


「……神?」


 荒唐無稽な言葉が出てきてシズクは頭が痛くなる。忍者も魔女も実物を見ているから納得はするが、神は流石に実物が現れてもそれが本物であるかどうかすら判断できない。


「神様はちょっと、困ります」


 オカルトの度合いが上がりすぎる。


「ああ、神と呼ばれる魔物の一種だ。わたしも詳しくは知らないが、魔物と交わって魔法を得る手法を行った最初の人間とも言われている」


「……」


 シズクは首を振った。


 関わりたくない。


「そんな真剣な反応をするところじゃないぞ? 神なんて単なる伝説だ。実際、わたしが交わった魔物も神に匹敵するとか言われていたが、こうして飼い慣らしている。大したものとは」


「それも初耳なんですが」


 シズクはクノ・イチの話を遮った。


「この状況下でシンくんを奪うために、クノさんが言うところの強い魔女が現れたことって偶然なんですか? VMMAとかいう対魔女のロボットもそうですけど、私たちが考えてるより、深刻な状況になってきてません?」


 それは公務員の勘だった。


 シズクは自分の勘が鋭いとは思っていない。ただ、公務員は仕事が面倒になりそうという一点については的中率百パーの勘を備えているとも考えている。能力のキャパシティを越えた事態、家に帰れない予感だ。


 すでに何ヶ月か帰れていないが。


「……ふむ」


 クノ・イチは少し考えた様子だった。


「どうでもいいだろう?」


 しかし結論はアッサリしていた。


「どうでもいい?」


「シンを奪い返したら、あいつらの争いには無視を決め込めばいいことだ。文科省の管轄でもないだろう。ミドリの責任問題でもない。鬼が出ようが蛇が出ようが、関係ない」


 それは恐ろしいまでに自分本位だった。


「無視できると思うんですか?」


 シズクは言い返した。


 ロッカク・タカセとその子を逃がして、落ち込んでいるように見え、実際のところ瞑想と称して胡座をかいたまま動かないでいたクノ・イチだったが、さしてダメージを受けていないのか。


「シンくんが、事態の核心にいる可能性は」


「高いだろうな。しかし、次に感知したら、わたしがシンを奪う。すべてを敵に回しても、だ」


「……」


 仕事が面倒になる。


 それはすでに確信を越えて、現実だった。

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