第127話 氷の大蛇
あらすじ サザンカふたたび。
先頭に立っていた。
「カンダ・シン!
炎のように髪を揺らしてサザンカが叫ぶ。
「わたくしに恥をかかせたこと、後悔させてあげますわ! 散れ! 取り囲め! 逃げ道を塞ぎなさい! 急いで! 急げ!」
鬼の形相というのだろうか。
肝臓十字軍と僕を奪い合っていたときには余裕を見せていた部分がなくなって、ローブの内側からすでに炎を吹き出させながら飛んでくる。
魔女たちへの言葉が荒い。
「ヤバいよ。サザンカ様」
「こわ、なに?」
「八つ当たりやめて」
士気が低い、愚痴めいたつぶやき。
「……」
僕にそれを聞かれちゃダメだろ。
「灰になれ!」
だが、サザンカ本人には聞こえていないようだった。取り囲むまでもなく、こちらの周囲すべてを飲み込むような巨大な炎の塊を飛ばしてくる。シンプルに高火力。当たれば消し炭だろう。
「忍法。モールヒル」
泥忍法は火に強い。
アスファルトから泥に変えて地面に潜ってしまえるし、そのまま逃げてしまえるからむしろ巨大な火力は目くらましとしてありがたい。
ただ、ロコトが心配だ。
さっきの船からの命令からしてルピカさんは鳩の卵の魔女なのだろう。サザンカは偉そうだしたぶん偉いので僕の子供と知ったらなにをされるかわからない。責任は感じたくないけど、僕のせいで死ぬとかなったら可哀想すぎる。
逃がすべき?
下手に関わって関係を疑われる方が?
ずぶずぶと地面に沈み込みながら、一瞬。
泥が凍りついた。
「?」
「ラッキーチャンスぅ」
おっとりとした声。
足下から出てきたのは牙の生えた魔女だった。モンスターウィッチの話と、肝臓十字軍と出会っていなかったら、ただの爬虫類かと思ったに違いないけれど、その凍った女体が魔女でなかったらなんなのかと言いたい。
「ゲットぉ」
素早い動きでもなかった。
「つめたっ」
けれど、掴まれた足首から全身が一気に冷える。それは寒さに動かなくなる指先の感覚程度の冷え方には違いなかったけど、いきなり全身に回るとどうしようもない拘束力だった、
上には逃げられない。
すでに泥が乾いて硬くなっている。
「忍ぽ……」
「ニドヘグぅ」
牙のある口を開き、長い舌が伸びたと思った次の瞬間には僕の全身を氷の大蛇が這い回っていた。それがぐるりと身体を滑らせた場所から凍りつき、凍った泥の中へと引きずり込まれる。
「サザンカ追跡なんて面倒なことを押しつけられたと思ってたけど、これはおいしいよぉ。ニドヘグぅ。食べちゃっていいのかなぁ?」
「コモロ。退くのが先だ。味見は後」
蛇と喋っていた。
「スミレは喜ぶと思う?」
「あの子は……」
耳が凍ったのがわかった。死ぬんじゃないかと思ったけど意識はハッキリしている。視界が凍りつき、魔女と蛇が僕の足を掴んでずるずると地中を進んでいく。
すでに穴が掘られていた。
まさか地中に敵が潜んでいるなんて。
そう思うのは僕の経験が浅いせいだろう。
忍者ができることは魔女もできる、そういう想像力が足りないから不覚を取るのだ。なんだかんだ逃げ続けていたから油断していたかもしれない。僕を取り巻く環境は敵だらけなのだ。
「……」
凍ってるのに、意識があるの怖い。
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