第118話 モンスターウィッチ
あらすじ シンは忍ドロに気付いていない。
セックスでならもう勝てる。
大勢のママさんを思うままに翻弄してきたという自覚の上で、心のどこかで抱いていた自信は、あっさりと打ち砕かれた。ちんちんの大きさはもともとの体格差でほぼ意味がない。
僕が鍛えた分、くのいちは出力を上げた。
それだけじゃない。
テクニックも駆使してきていた。
息苦しいほど長いキスで頭が真っ白になり、やっと呼吸したと思った同時に下半身が締め付けてくる。回数も量も、自分が思っていた限界より多く抜き取られたのがわかる。
そして、
「わたしより気持ちいい女がいるか?」
ささやいてくる。
「シン、経験を重ねて、わかるはずだ……相性ですらない。絶対的快楽だ。最高の女がすべてを凌駕しているんだ」
思考力を失った射精の最中に、僕を口説く。
理屈では拒否してる。
でも、ちんちんがだれより納得していた。
「なんか、身体、変わった?」
僕は言う。
「やわらかく、なった気がする。中も、外も」
「前は硬かったか?」
「密着、感かな。たぶん。ずっとぴったり張り付いてるみたいな。イチさんとひとつになってる感じだった……ひとつに、されてる? なんか、植木に刺さった栄養剤の気分だった」
「褒めていないな」
「……だって、死にそうだ」
自分が衰弱しているのがわかる。
二十回? 三十回?
体位は数え切れないほど変わった。空中から地上まで。今は地面に横たわっていて、木の上で寝ていたのは、警戒の意味で昼間だったはずだけど、もう夜が明けようとしている。時間感覚を失わされていた。
何回か死んだと思う。
「殺しはしない。ただ、人間の快楽は生死の境でもっとも高まる。それを知ったのが、わたしが、シンぐらいの歳の頃だ。人を殺しているときしか気持ちよくなれなかった」
「殺しかけてるときに気持ちよく?」
危ない趣味だ。
ママさんの中に首を絞めて欲しいと言っていた人がいたことを思い出す。僕はできなくて、そんなことしなくても気持ちよくすると宣言して、かなりに頑張った。あれはつらいセックスだった。
「むろん、シンの命を感じる」
くのいちは自分のお腹を撫でていた。
「……」
悪寒が走る。
避妊なんかしてないから当然、その結果はある訳だけど、くのいちの場合、人間離れしてすぐ妊娠して産んだりとかしそうで怖くなる。自分の子供が化け物になる実感というのだろうか。
タカセさん。
「約束だ。居場所を教えて」
「茨城県の小美玉だ」
「……おみたま」
聞いたことのない地名だった。
「防衛省管轄の土地に肝臓十字軍が大規模なキャンプを張っている。兵士の数は5000。装備についてはこのタブレットに情報を入れてある。持ち運びは許可されていない。情報漏洩が露見するとマズいからな、ここで頭に入れろ」
「……」
あっさりと約束が守られて僕は動揺する。
もっと色んなことを要求されると思った。単純にセックスだけで終わるとは。聞き分けが良すぎて嫌な感じだ。なにか企んでるのでは。
「肝臓十字軍ってのは、なんなの」
僕は探りを入れるために質問する。
「わたしは知らない」
即答だった。
「興味もない。知りたいことがあるなら、シン自身で潜入するのだから調べろ。忍者だろ」
それは言う通りではある。
「じゃ、あ、鳩の卵の魔女は?」
ならばと僕は別の質問をぶつけてみる。
「会ったのか?」
隠す様子もなく話に応じた。
「サザンカ、って名乗ってた」
知っていることはそれくらいだ。
「よく無事で生きていたな。あれはかなりの男嫌いで有名だ。嫌いすぎていたぶるのが趣味ですらある。シン、どうやったんだ?」
その答えも即答だった。
考えてる様子がまるでないので、ウソの感じはしない。素直に賞賛している風だ。そもそも僕にくのいちのウソを見抜けるか自信がないけど。
「秘密」
奥の手は使うことがあるかもしれない。
「ふむ。その秘密と交換になるかはわからないが、わたしの知る限りで言えば、あいつらは魔法の対価として生け贄を使う魔女の一派だ。鳩の卵というのはかつてポピュラーだった生け贄だな」
「……イチさんとは違うってこと?」
「古い魔女だ。魔物と交わる方式は割と近年の魔女だ。モンスターウィッチなどと呼ばれる。失礼な呼び方だが、事実ではある。わたしが率先して否定する立場にもない」
「……」
生け贄を欲する魔女が僕を狙っている?
「秘密は?」
「……秘密にしておけない?」
「次は死ぬ寸前までイくか?」
くのいちは微笑んだ。
僕は、もちろん全部ぶちまける。
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