第119話 魔法は契約

あらすじ シンの奥の手はくのいちに知られた。


「……覚えたか?」


「ん、文章だけだとよくわからない……」


「覚えたな」


 僕の反応を無視して、くのいちは肝臓十字軍小美玉キャンプの情報が入ったタブレットを回収した。一時間ぐらい、一通り目を通しただけで記憶しろと言われても困る。


 記憶力なんて鍛えてない。


 そもそも見慣れない文字の羅列で頭に入る訳がない。修行は主に実技で、そういった方面の知識を学習するカリキュラムがある訳でもないのだ。忍者の学校があるなら通わせて欲しい。


「不満そうだが」


 くのいちは巾着袋を投げつけてきた。


「なに?」


 受け止めて、僕は中身を見る、


「手助けがあるだけ感謝しろ。国際指名手配になったことで、わたしが直接シンの身柄を保護することができなくなっている。忍んで逢いに来るのも簡単じゃないんだ」


「……」


 一昼夜セックスした後に言われても。


「コンドームじゃん」


 中身は大量の避妊具だった。ママ活でもそこそこ使った。精液お持ち帰りサービスは需要がかなりあった。装着も慣れてる。


「それはシズクからだ」


 くのいちはつまらなそうに言う。


「感染症対策? そんなの病気の検査は月一回は必ずしてたし、ママさんたちにもしてもらってた。割とその辺には気を遣ってたんだよ? イチさんがどうか、ッてぇ」


 言いかけた間に腹をパンチされた。


 たぶん軽く。


 ただ、僕の身体は浮いたし、膝から崩れ落ちたし、両目に涙が溢れたし、荒い息を吐いた口から涎が垂れてもどうにもできなかった。


「失礼だな、わたしはシンだけだ」


 くのいちは言う。


「ご……め」


 確かに侮辱だった。


「男を維持するために忍魂を股間に集めているだろう? 結果的にそれがシンの存在を感知させやすくしている。わたしが見つけられたのもそれのせいだ。その避妊具は透明で、見た目ナマと変わらないが忍魂を隠す。肝臓十字軍が忍魂を扱えるかは不明だが、魔女ならば魔力と似たようなものだから感じとれる。普段から装着しておけ」


「……」


 声は出せなかったけど頷いた。


 浮気防止みたいな意図もたぶんあるだろう。こうなって僕がまた別の女性に子作りしていたら今度は許されない気がする。セックスするなとまでは言わないが、ナマではするなと言外に伝えてるのはわかる。


 そのくらいの独占欲はあるだろう。


「おそらく、失敗しても死にはしない」


 くのいちは僕の耳元に唇を寄せた。


「だからと言って油断はするな。命を奪うまでもなく、人を殺す手段はあるぞ。忍法でも魔法でも、それ以外でもな。本当に困ったら呪文を唱えろ。直接の手助けはできないが」


 くのいちは僕の耳を噛んだ。


「呪文?」


 血が出たのがわかる。


「ああ、一回分、わたしの魔法を預けておく」


 出た血を僕の唇に塗った。


「優しいんだ」


 意外と過保護だと僕は思う。


「どうかな? 魔法は契約だ。タダとは思わない方がいい。使わなければ問題ないが、契約が成立すれば対価は発生するぞ? わたしは魔女でもある。わたしが得をする」


「……ありがとう」


 悪ぶってるけど、心配はしてくれていた。


「呪文は――」


 くのいちは僕の耳に囁く。

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