第105話 バレたらバレたで

あらすじ シンに逃げ場はない。


 サタカは猿だった。


「よくわからない連中が来てた」


 タカセさんが戻ってきて、追っ手についての情報を伝えてくる。逃亡したホテルに、剣と盾と甲冑の男たち。銃の発展と共に消えたはずの装備ながら。コスプレ感のない筋骨隆々。


 今の地球のどこから現れたのか確かに不明だ。


「魔女の一派じゃねぇか?」


 サタカが画像を見て言う。


「どうも内部での争いがあって、直接じゃなく魔女になれない男を駒に戦ってるって話だ。見ろよ。視線が不自然だろ? 本人の感覚ではなく、魔法で動かされてるらしい」


「最近の話?」


「ここ一ヶ月ぐらいだな」


 真面目に喋っている片手は、僕のズボンの中に入っていて、尻を撫で回していた。ずっとこの調子だった。とんでもなくしつこい。


「……」


 僕は表情に出ないようにするので精一杯だ。


 セックスには慣れたつもりで、実際のところ女性相手なら落ち着いたものだと思うのだけど、男に触られるというだけでこれほど嫌な汗が出るものなのかと思うぐらいには余裕がない。


 下手に抵抗すれば電忍法。


 接触状態ならば、サタカは僕を思った通りに動かすことが出来るようになっている。脳が身体を動かす信号と同じものを相手に流す、という仕組みらしく、抵抗するという考えが浮かぶより前に身体を勝手に動かされてしまう。


 今は声が出せなくなっている。


 尻の穴に指を突っ込まれて裏側を引っかかれて悲鳴を上げようとしても息苦しくなるだけだった。タカセさんを目の前に実験させられている。射精は止められているが絶頂感だけはあるので思考も飛びがちだ。


「魔女が警察に雇われるとは思えない」


 タカセさんは気付かない。


 真面目に僕を追っ手から守るために行動している。テントの中に広げられた小さなテーブルの上に情報として集めて甲冑の一部や短剣。その向こう側に座る僕の尻まで意識は向かない。


「オレも同感だ。あいつらは忍者とは違う。金じゃ動かない。たぶん指名手配のバックと思想的な繋がりがあるんだろう」


 サタカは澄ました顔で、話を合わせてる。


 さっきまで僕の尻穴をなめ回していたヤツと同一人物とは思えない。失恋がきっかけで吹っ切れすぎている。そうでなければ顔に座ってくれとか言わないだろうが、なんなんだこいつ。


「内部の争いとも関連すると思う?」


 タカセさんには気付いて欲しくない。


「どうだろうな。たぶん日本人じゃないこの男たちが何者かってことを調べた方がいいだろ。これだけ目立たせるってことは、ある意味、誘ってるってことだからな」


 びく。


 僕の手が勝手にサタカの股間に伸びる。


「タカセ、相手が想定してる敵は、たぶんオレたちじゃない。こいつらを見張って、別の組織とぶつかる動きがあったら」


 ちんちんを揉ませながら真面目に言う。


「逃げるタイミングってことね」


 タカセさんは頷く。


「ああ……っく」


 ビクビクと興奮しているのがわかった。好きだった。あるいはまだ好きな相手を目の前にしてスリルを楽しんでる。さらにバレたらバレたで構わないと思ってるのもわかる。


 こいつにはなにも痛い要素がない。


「なんか二人、様子おかしくない?」


「……!」


 タカセさんが気付きそう。


「オレが、こいつらを見張ってくるよ」


 すっと尻から手を離して、サタカが立ち上がる。前屈みの股間はそうと知らなければおそらく気付かれない。普通のサイズのちんちんだから。


「いや、あたしが」


「タカセは少し休め。オレもニコの見張りだけじゃなまるだろ? 仲が良くもない男二人でテントにいたら空気もおかしくなるってもんだ」


「そう?」


 タカセさんは僕の顔を見た。


「うん」


 頷くしかない。


 様子が変な理由は仲が良くないから。そう口裏を合わせるように促されているのがわかる。それ以外の理由を僕が喋ろうものなら、サタカは動画をバラすだろう。


「へ」


 笑みを浮かべてテントを出て行く。

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