第97話 安全な道
あらすじ タカセとサタカ。
テントを設置して、それに泥忍法で刈り取った草や木を貼り付けて覆う。よほど注意深く見ても景色に溶け込んでわからないし、夜とかに小便で外に出ると自分でも戻れなかったりする。
「ニコを追ってきてるのがだれなのか知りたい。だからしばらく動かないで待つ。相手の規模と能力、それを踏まえて今後の逃走ルートを」
タカセさんは、テントに入って入手してきたらしい周辺の紙の地図を広げてLEDランタンで照らした。マジックで周辺になにかあるか書き込んでいく。主に水道、トイレ、コンビニ、スマホの充電ができる場所などだ。
情報を集めることに慣れている。
「いつまでつづける気なんだ?」
サタカは言った。
「クノ・イチもこいつを追ってるなら、指名手配から情報を掴んで来るだろ。動かなきゃすぐ追いつかれる。そのときどうする」
「……」
僕もそう思っていたところだった。
こいつは冷静だ。
「イチさんのところに、行こうと思う」
考えていたことを言う。
「はい?」
タカセさんが僕を睨んだ。
「少なくともそれでタカセさんを追ってくる相手はひとつに絞れるはずだ。僕がいない状態で捕まると困ったことになるかもしれないけど……そこは足手まといがいないんだから自己責任で」
「なに言ってんの? ニコ」
「だから」
「ニコが指名手配されてるからあたしたちも追われてるんだよ? 当事者が逃げる気?」
「責任転嫁するんじゃないけど、なんの力もなかった僕を連れ回すことにしたのはタカセさんだ。それに……半年も逃げて、イチさんが以前のように対応してくれるとも思わない」
今度は殺されるかも知れない。
恋人になると言っておいて、方々のママさんたちとセックスした。はじめての恋人だと浮かれていたくのいちを思い出すと、その感情が怒りに反転していることは十分に考えられた。
正直、怖い。
「僕にとっても安全な道じゃない」
「……そりゃダメだ」
サタカが口を挟んだ。
「詳しいことは知らないけどよ。交渉の余地があるとオマエが思ってるってことは、こっちにとってもオマエを手札に握っておく価値があるってことだ。同行しろ。余計なことを考えて逃げるってんなら、足の一本ぐらい落とすぞ?」
「……」
鋭い意見ではあった。
確かに僕という手札を持っておくことの方が安全には寄与するかも知れない。タカセさんと僕の間ではあまり考えないことだけど、裏切る可能性を考慮すれば当然だった。
まさか二股をかけてるとは思わないだろう。
「サタカ。勝手なこと……」
「んだよ? やり方はともかく、クノ・イチ対策が必要なのは大前提だろうが。ただで死ぬ気はないからな。捨て駒として呼ばれたんなら、尚更オレはオレが納得するように動く」
道理だった。
「……まずは指名手配をかけた側を把握する」
タカセさんも反論できないようだった。
「そっちとも交渉できるかもしれない。クノ・イチは交渉というより、見逃して貰えるかの運勝負みたいになるから……」
それも頷くしかない意見だった。
くのいちがイレギュラーすぎる。
忍者になって忍魂を少しは使えるようになってわかったことは、あのおかしな忍法が、とてつもない力業だったという事実だった。壁や天井を歩く、そんなことも、僕がやれば窓ガラスは割ってしまうから踏めなかったり、何事もないように出来るものじゃない。
空中なんてどうやって走るんだ?
ジャンプはできる。
着地もできる。
空中を蹴るのは意味がわからない。
魔法との複合技なんだろうか。
「これでよし」
そして僕は縛り上げられた。
「こんなことしなくても逃げないよ」
「オマエが、そういう考えも持ってることを口にしたんだ。気の迷いってのはいくらでもある。もちろんオレが見張る。やるべきことはやる。それがオレのポリシーだ」
「……」
タカセさんは情報収集に向かった。
仕方がない。
どう動くか方針が決まるまで待つしか。
「なぁ? ずっと気になってたんだけどよ」
「なに?」
「なんでずっと勃起してんだ?」
「……気にしないで」
なにか嫌な汗が出てきた。
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