第96話 ダミー要員
あらすじ イバ・サタカは十五歳。
突如現れたくのいちに生殺与奪の権を握られた僕だったけれど、タカセさんはそうとは知らずに助けに来て、なんやかんやママ活で生活費を稼ぎながら逃げることになった。
「クノ・イチって実在の人物なのか!?」
「……どういう意味?」
「悪い子は食べられるとか、悪いことをしてると出てくるとか……あるだろ? 迷信っつーか、空想上の生き物っつーか」
サタカは素直に話を信じたみたいだった。
犯されたとか女にされたとか、僕の恋愛感情だとか説明するとややこしい部分を端折った結果、ぼんやりとした内容になったように思えたけど、細かいことは気にしない性格らしい。
ありがたかった。
「実在するよ。忍者の間で伝わってる盛られた話よりはいくらか人間かも知れないけど、大筋では空想上の生き物に近い」
男同士で複雑な話なんて気が重い。
女性相手なら甘えて頭撫でて貰って会話減らせるので疲れたときはアンニュイな少年を装うのもやぶさかではないけれど、男に甘えても仕方がないのだ。楽しくもない。
「マジか……じゃあオレが呼ばれたのって」
そしてサタカも状況は飲み込めた。
「……都合の良い駒かも」
僕は包み隠さず言う。
「そうだな……国際指名手配でクノ・イチ以外の追っ手がかかった状況で呼ばれるってことは、オレも巻き込む気ってことだ」
「悪いけど……」
そうとしか言えない。
甲賀衆の忍者たちを頼らない逃亡生活をつづけてきたのはかつてくのいちに仲間を壊滅させられたからだ、という話は少しだけ聞いた。あまり思い出したくない過去のようだったから深くは追求しなかったけど、状況のさらなる悪化を受けていよいよ自分の身を守るために、言い方は悪いが犠牲を覚悟したのだと思う。
「いや、つまりタカセはオレを必要としてるってことだ。結婚前の試練ってとこだろ。それだけ信頼されてるってことだな! ははは!」
サタカは言った。
「……」
僕は首肯するのを躊躇う。
ポジティブなのか空元気なのか、性格を把握するにはまだ相手に対する情報が足りないが、タカセさんが僕を好きだと言った気持ちが変わっていないのなら。
「捨て駒だよ。サタカ」
「……!」
いつの間にかタカセさんが横に座っていた。
泥忍法はカモフラージュが真骨頂。
「戻ってきたのか」
サタカは特に驚かない。
「シマさんは?」
僕はまだ慣れない。
「一緒に行動するとなると危ないからね。親戚のところに行くように手配してきた。三人組と認知されてるだろうから、サタカはダミー要員」
案の定だったけど、ストレートだ。
「適当なところで死んで?」
「……変化して戦闘して死んだフリか」
横で聞いている僕はヒヤヒヤしていたけど、タカセさんとサタカのやりとりは落ち着いたものだった。作戦の意図を完全に飲み込んでいる。忍者の世界は雑な恋愛感情では動かないようだ。
くのいちは動くけど。
「返り討ちにするんじゃダメなのか?」
「死んで? シマの安全を確保しないと」
「ま、そうか。死亡扱いにして追跡を撒く方が優先か……。死んで、オレとして再度同行した方がいいってことだな」
「あと結婚とかは親同士がした約束で、その親が死んでるんだから無効。それも伝えたくてね。そろそろ……サタカは甲賀のためにいい跡継ぎを産んでくれる子を探すべき」
「オレは甲賀のことなんかどうでもいいが」
「……」
この二人、会話が微妙に噛み合ってない。
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