第59話 気持ちはクリア
あらすじ 試着室のカーテンを開けたのは軽い気持ちだった。
自分じゃ着ないが可愛い子には着せてみたい。
そんな服を選んでニコを楽しい気分にしたかったというのは口実で、目の前の現実問題から逃避したかっただけだとタカセは気付く。二人で入るには狭い試着室に踏み込み、カーテンを閉める。迷っている暇はなかった。
こんな姿を見られては少女の未来が壊れる。
「ニコ……声、出さないでよ?」
助けた責任は取らねば。
「!?」
それを掴んだ瞬間、強烈な忍魂の共振がタカセの全身を貫いた。存在する明確な悪意、そして抑えきれない性欲。どんな忍法かはわからないが、それらが発現したものであることは明らかだった。
肉体の回復。
身体機能の強化。
そうした忍魂の使い方を性的嗜好でねじ曲げて、望まない女に男性器を生やすような悪趣味なことをしたとしてもおかしくないのがクノ・イチだ。実際にタカセもそれを目撃している。それで汚されている。
「我慢しなくいいから、ね?」
それだけ言って、ニコに生えたものを咥える。
静かに、しかし強く扱いて吸った。
「ん!?」
ニコは口を押さえていた。
時間にすれば十分ほど。
しかし男性器は激しい衝動を伴っていた。
数発を立て続けに吐き出す。
すべて飲む。
店の試着室を汚す訳にも、そして忍魂が生み出した残滓を残す訳にもいかない。発現したものはその機能を果たせば基本的には消えるはずだったが、やっとくたりと萎えてもまだ残っている。
「……場所を変えましょう」
喉の引っかかりをごまかしながら言った。
夜とは言え、試着室を占拠しつづけられない。
「タカセさん、僕、その」
「あたしの家に連れていく」
もう仲間を頼れなかった。
クノ・イチの使った忍法を調べるためならば、少女の身体を実験体にすることを厭わない忍者などいくらでもいる。甲賀衆は仲間だが、善的な集団という訳ではない。そこに預けてしまっては助けた意味がなくなる。
「え、あの」
「ともかく! 行くよ!」
試着しかけた服を置き去りに、タカセはニコを抱えて走り出した。もう目立つことを気にしてはいられない。忍法がかかっているのならば、発信器などなくとも追跡はされる。
クノ・イチが現れるのは時間の問題だ。
「タカセさん」
「ごめん。ニコ」
状況は最悪と言えた。
「あたしが、甘かった……あの女を相手に、目的以外のことに目移りなんてしちゃいけなかった。どこまでも非情に徹して、ニコを見捨てるべきだったと思ってる」
本音をぶちまけてしまう。
「……今からでも」
「ううん」
タカセは首を振った。
「違うの。後悔はしてるけど、覚悟は固まったから。あの女を殺すことより、ニコを守ることが大事だから。それがあたしの気持ち」
自分に正直になることで、気持ちはクリアになっていた。両親が忍者だった。両親は人を助けたかった。世の中を良くするために忍者をしていた。その背中を追って自らこの世界に入ったのだ。
「知り合ったばっかりなのに、なんで……」
ニコの目に涙が滲んでいた。
「人を助けたい気持ちに時間は関係ないよ。大事なことには妥協しない。助けるって決めたら、どんな手を使っても助ける……たとえ」
タカセはもう決めていた。
プライドさえ捨てれば、生かす手段はある。
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