第56話 ニコ
あらすじ くのいちもシンも、正しくはない。
ならば、なんとかタカセさんに迷惑をかけないようにするしかない。忍者相手に隙を見て逃げるなんてことが可能かどうかわからないが、できなければ結果は見えてる。
僕を誘拐した女をくのいちが許す訳がない。
「追っ手は……まだみたい」
動物園を抜け、近くのビル街へ軽々とジャンプし、そのまま壁を駆け抜け、屋上へ。いくつかのビルを飛び移って到着した場所にはピンク色のキャリーバックが置かれていた。
どうやら目的地らしい。
「まず、発信器を取り外すから」
そう言って僕を下ろして立たせるとしゃがみ込んで腰の辺りを掴む。女同士と思っているから遠慮のない触り方で、当然のように女性器に二本の指を突っ込むと中から小さな銀色のカプセルのようなものを迷いなく取り出した。
「いつの間に……」
入れられていたことに気付かなかった。
「パターンなの。このやり口」
タカセさんは安心させるように笑う。
「自分じゃ取り出せないところに貼り付ける」
そして指先で握り潰した。
「複数仕掛けてる場合は、大概、胃の中なんだけど、今日はなにか食べさせられた? 食事に混ぜて使い捨ての発信器を飲ませられてる」
「……食べてない」
僕は答える。
七日も寝てたはずなのに空腹すら感じてない。薬を飲むのに水をもらっただけだ。おかしい。体調が悪い感じもしない。魂以外もなにかされてる気はする。それをタカセさんに説明する術が僕にはないけど。
「あの場所ではなにをされてたの?」
「わからない。行くように言われて、眠らされて……気がついたら、裸で」
女から男に戻るため、性欲を増す薬を飲んだ。
「あの、その……」
事情がややこしすぎて言うのを躊躇う。
説明して巻き込むのも悪い。
「ああ、ごめんね。無理に言わなくてもいい。いきなり言われても困るよね。落ち着いてからにしよう。着替えて、なにか美味しいものを食べて、安全な場所で落ち着いてから、うん」
「……はい」
ともかく僕は逃げることを考えよう。
「あたしの予備でごめんだけど……」
上着を脱いで、鎖帷子も脱ぎ、サラシにパンツ一枚という薄着になったタカセさんはパッパと学校の制服らしきものを着込んでいる。
「女子高生……?」
たぶん僕よりは年上だと思う。
「十七。はい」
言いながら、ピンクのパンツを手渡してきた。
「ブラは……たぶん、あたしより胸のサイズあるよね? 何歳……いや、あー、名前も聞いてなかった。ごめんね。色々焦っちゃって」
そして僕の身体を見て、困り眉になっている。
「! ぼ、僕は、その……」
名前?
どうする?
男だって言うべきか?
正直に言ったら、やっぱり巻き込む。
「……に、ニコ。です」
とっさに思いつかず、くのいちの名前からの連想で名乗ってしまう。タカセさんも被害者なのに良くないとすぐ気付いたけどもう訂正できない。偽名なのがバレバレになる。
「ニコ、だけ?」
首を傾げた。
「……あの僕、親、とかいなくて……行くところも帰る場所もなくて、だから、あの、タカセさんに迷惑をかけると……」
ヤバい。
「ううん、いい。つらいこと思い出させたね」
タカセさんは僕の頭を撫でた。
「ニコ。可愛い名前だよ」
「……」
ヤバい。
なんでこの人、こんなに優しいの?
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