第35話 すべてが逆効果
あらすじ シンは女にされた。
「ふーっ! ふーっ!」
くのいちが荒い息を吐きながら女に戻っていく。僕を抱きすくめた胸板からおっぱいが生えてくる様はもはや気持ち悪いと言って差し支えない。訳がわからなかった。
「はっ、はっ……はっ、はっ……」
呼吸が苦しい。
十キロから二十キロぐらい練習で毎日走っている陸上部員だった僕だが、かつてないレベルで息が切れている。力が入らない。息を吸おうとすると胸が重たい。筋力が足りない。
「っ……ばか、かよ」
でも言わなきゃいけなかった。
「ば、っか、じゃないの?」
下手したら死んでた。
水中で女になった、けれど自分の身体に起こった変化を感じている余裕はなかった。同時にくのいち男に襲われていたからだ。溺れる息苦しさの中じゃ痛みなんてわからない。
「めちゃくちゃだ」
後はもうメチャクチャだった。
湖から引っ張り上げられ、草むらに転がされ、どのくらいの時間が経ったのか、泥まみれで空も地面もわからないようなことになった。まだ生きているのが不思議だ。あの世を見た気がする。失神したと思う。
ただ、まだ生きてる。
「こんなの……」
下腹の重みでそれを感じる。
「思わず理性を失った」
女に戻ったくのいちの第一声。
「シンが可愛すぎた。とんでもない破壊力だ」
「……い、言うこと! 他に、あんだろ!」
謝れよ!
「や、やめてくれ! そんな、可愛い声を出されると、このまま女同士ではじめたくなる!」
ただ、くのいちの興奮も尋常ではない。
理性を失ったというのは確かだと思う。楽しんでいるというより、そうせずにはいられない必死の行為には感じられた。僕を弄ぶというより、自分を制御できないという具合だ。
だからって納得できないけれど。
「男に、戻ってないんだけど」
僕は言う。
問題はそこだ。
まったく身体を動かす気になれないが、視線を落とすと自分のおっぱいが見える。ちびなのに割と大きいとかそんなことはどうでもいい。見たくない。どんな風に思えばいいのかわからない。ともかくさっさと戻りたい。
このおなかの違和感をどうにかしたい。
「ふーっ……むろん、戻るはずはない」
くのいちは深く息を吐いた。
「だが、わたしは驚いている。精を吐き出しきれば女に戻れたことに。これはシンにとってもいいヒントだろう。男の限界を迎えれば本来の女に戻るのならば、その逆も成立しうる。その身体はまだしたりないのだろう。貪欲な女め」
「ふざけ、んな!」
だれが女にしたんだよ!
「すこし、休憩しよう。身体を洗って、それから女同士だ。流石に泥まみれではよくない」
くのいちは僕を抱きかかえて立ち上がる。
「ふ、ざけんな!」
力を振り絞って僕は怒鳴る。
「もういやだ! こんなの! いやだって!」
「おそらく、その心境も良くないだろう。快楽を十全に魂の満足に転換できていない。シン、恐れる必要はない。それは肉体が持つ、本質的な欲求だ。心を開いて、受け入れるんだ」
「そういう話も! してないんだよ!」
「おおう……可愛い声だぁ」
くのいちは恍惚の表情だった。
すべてが逆効果。
ヘンタイにはなにを言っても通じない。
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