第5話


「お父様、あの……」


第一王女のサリーナが青ざめた顔で私を見る。

サリーナはメイシャン嬢とは学園に通っていたときからの親友同士。

あの指輪を知っていれば、アムゼイの忠誠をみてもメイシャン嬢が使ったことは明白だ。

しかし、先に使ったのは第二貴妃の発言からアムゼイの方だろう。

私のその言葉に「よかった」と呟き息を吐く。


「では入ろう。あの指輪がある以上、素直に自供するだろう」

「お父様、先ほど貴妃はアダマン伯爵と申しておりました」


第五王子の言葉に第三王女が何かに気付いたように「ああっ」と小さく呟いた。


「それがどうした?」

「レイドリック皇太子夫妻暗殺の手配書の名前が」

「「アダマン伯爵です」」


第二貴妃が震えながらこの場から去ろうとするものの、行く手を阻むように取り囲む王妃と王子たち。


「おや、第二貴妃。どこへ行かれるのです?」

「楽しいパーティーはまだこれからだというのに」

「……そういえば、皇国に調達したいとアダマン伯を実家の伯爵邸に招かれたそうですね」

「ご実家より離縁の申し込みがございましたわ。ねえ、陛下」


王妃の言葉に首肯する。


「今日が其方の最後の公務となるはずだった。……女性衛兵、元第二貴妃を地下牢へ」

「いやです! なぜこのような……‼︎」

「なぜ、とな?」

「私は王太子の母。それなのに」

「アムゼイは王太子になれぬ。母である其方がレイドリック皇太子夫妻暗殺で手配されているアダマン伯爵と手を組んでいた。さらに、王家がメイシャン嬢に関わることを許してはおらぬ。アムゼイはそれを破り、あまつさえ隷属の指輪で操ろうとした。……そのような公私も弁えられぬものを誰が王太子、すえは我が後を継いで国王になど据えれられようか。そのようなことをしたら、国の崩壊が目に浮かぶわ!」

「ご自身の愚かさを悔やむがいい。其方の愚かさでアムゼイ王子が王太子の座から引き下ろされ、其方の欲がアムゼイから王子の地位を剥奪させ、ルービン王子の婚約解消により成された契約を反故にした罪により、アムゼイは今後奴隷として生きる道へと堕ちた」


王妃の言葉に第二貴妃は奇声をあげる。

それもすぐ衛兵によって口を塞がれ、くぐもった声にならない声になる。


「連れていきなさい」


サリーナが短く言い渡すと衛兵たちが縄をうった第二貴妃を立たせようとする。

しかし抵抗のつもりか立とうとしない彼女を衛兵たちが遠慮なく引き摺っていく。


「さようなら、あかおにおばちゃん」


第二貴妃の落とした真っ赤なヒールを手にした末の姫がそう言うと王子や王女たちから小さく笑いが起きた。


「たしかに。お父様が王妃様おかあさまや貴妃様の宮へお渡りになられると、いつも顔を真っ赤にして暴れていましたわ」

「だから執着したのですわ、『王太子の生母』という地位に」


アムゼイの罪は奴隷で変わらない。

隷属の魔導具で意思を封じられて命じられるままに動く奴隷。

ただし気をつけないといけない。

隷属の指輪であれ腕輪や首輪、足輪であっても、装着されている間は死ぬことがない。

二十代で成長も止まり、死すらも許されなくなる。

『はめた本人しか外せない魔導具』なのだ。

アムゼイはそれを使った罰を受けなくてはならない。


「お父様、宜しいでしょうか」


サリーナの提案を私と王妃は受け入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る