第10話『最終決戦』

 くそったれの市長がどうなろうが知らんが、何かが起きたら不味い……

「塚田さん車!! ヒエとヤエは俺の中に入ってろ!! 行き先はスポーツセンターだ!」

「はいっ!」

「勿論俺も茉希も行くぜ!」

「鷲尾さんは別に良いけど茉希ちゃんは……」

「大丈夫だよ師匠! あれはもうジジイじゃなくなってる、身内の不始末は着けないとね」

「乗って!!」

 塚田さんが車でやって来ると全員で乗り込むとすぐさま車を飛ばす、ここから先は誰も知らない未来だ。不安を感じたのかヤエが心に語り掛けてくる。

『大丈夫よ、ヒエも居るわ。なりより仲間がいるじゃない、私だって居る……だから無茶しないでね』

『皆で幸せを手にしましょう!』

『そうだな……』

『返事は? 今のタケシの心が見えないのよ……』

『何とかするよ!』

 上手く心を読まれなくてすんだ、目的地が見えて来ると『呪力』の竜巻が吹き荒れていた。

「ヒエ、ヤエ何とか出来るか?」

 二人共俺の中から飛び出すと

「私達に任せて、車に結界を張るわよ! 京子! このまま突っ込んで!!」

「行きます!」

 塚田さんがスピードを上げて突っ込んでいく、竜巻が色々と吹き飛ばして行く中を突き進む。雷が落ち、舞い上がった車が飛び交う。

「ヤエ! あの飛ばされている車の中にニンゲンはいるか?」

「いるわね……今の所気絶してるみたいだけど、車が保つかどうか……」

 覚悟を決めるか。

「聞いてくれ、ヒエとヤエは吹き飛んでる車をどうにかしてくれ! 誰一人死なせない様に」

「この車はどうするの?」

「塚田さん出来るよね?」

「いつでもどうぞ!」

「鷲尾さん、探知してるよね?」

「もうすぐ着くぞ!」

「と言う訳だ頼むよ女神様! こっちは何とかする」

「わかったわ、ヒエ行くわよ!」

 女神が飛び出していくと

「塚田さん!!」

「任せて下さい!」

塚田さんの三角結界で車を覆う

「ぐっ……運転しながらは、思ったよりキツイです、鷲尾さん場所は?」

「もう少しで竜巻の中心だ! 頑張ってくれ京子ちゃん!」

「茉希ちゃんは大丈夫?」

「三角槍があるから闘えるよ!」

 嵐を突き抜けるとスポーツセンターは瓦礫の山となっていた、車から飛び降りると。

「ジジイ!」

 茉希ちゃんが叫ぶ、市長は瓦礫の上に立っていた。

「十五年前よりも前、あの時……何処からともなく声が聞こえた……私にさらなる富と名声も与えると……私は願った!」

「声に導かれ気がつくと私は、ここの地下にいた。そして見よ!! この大いなる結晶を!」

 地響きが響くと瓦礫の下から、女神によって封印されていた結晶が黒く穢れて現れた。コイツはきっと封印されても誰かのネガイを叶えようとし続けていたのだろう。自らの役目として……良いか悪いかは別として、このくそったれな市長に出会ってしまった。

「何で封印を解いた! そんな力がどこにある! そのせいで沢山のニンゲンに! 女神に迷惑をかけた! 答えろ!」

「家の家系は先祖より霊力が伝わって来たのだよ、その力で政治情勢などを読みとり政治家として大成して来たのだよ! 茉希なら分かるだろう?」

「うっさいバーカ! 知るか! この力は皆を守る為にアタシは使った、これからもきっと!」

「まったく……折角生贄にしてやったのに……役目を果たさず私に歯向かうか」

 その言葉で怒りで手が震える、茉希ちゃんは信じられないといった顔をしている。

「ちょっと待て、今生贄にしたって言ったな? お前……意図的に引き起こしたって言うのか!!」

「最終的には茉希……お前には『呪い』諸共消えて貰うつもりだったのだよ」

「ふっざけんなぁ!!」

 茉希ちゃんが三角槍を持ち突撃していく、後から俺も続く。ただ許せなかった孫を生贄と言った事、女神が住まうニンゲンの幸福を願い創り出した結晶を汚したこと。

 だが突然瓦礫が市長に集まり始めたのを察知して茉希ちゃんを抱いて伏せる。頭の上を瓦礫がかすめていく、あっぶな! 瓦礫が集まり巨大な人型となり浮かび上がっている。下半身はなく臍の空洞内に黒い結晶が浮かんでいた。途轍もない霊圧を感じる、あまりの巨大さに恐怖する。周りに幽鬼共が出現する……不味い塚田さんが狙われる!

「残念ですが、幽鬼共に遅れは取りません」

 塚田さんが三角剣を四方八方に向けて飛ばして斬り裂いている、鷲尾さんがすり抜けて塚田さんに向かう幽鬼を叩き潰している。

「こっちは任せろ!」

「任せた! 茉希ちゃん行ける? って言うか力を貸して!」

「あのジジイはぶっ潰す!!」

 でもどうするかな……デカすぎるゆえに近づくのは危険か、良く見ると頭頂部に市長が取り込まれかけている。大き過ぎる力の代償か、急にそんな力を使えばそうなるわな。あそこまで行ければ……あっ!

 「茉希ちゃん! 塚田さん! 鷲尾さん! ここまで来て!」

「ちょっとまってな! ごめんよ京子ちゃん」

「ちょちょっと!」

 鷲尾さんが塚田さんを抱きかかえながら向かって来るのを茉希ちゃんと援護して合流して幽鬼共を蹴散らしながら作戦を伝える。

「無茶言いますねヤガミさん!」

「この間の応用だよ、塚田さんが要だ! 鷲尾さん達は塚田さんを絶対死守して!」

 ぶっつけ本番悪くない、塚田さんの三角剣の上に乗り霊気を同調させて固定する。

「ヤガミさん! 覚悟は!?」

「限界まで飛ばして下さい!」

「はっ!!」

 かなりの速さで空中を滑空して行く、頭頂部を目指すとやっぱりか……邪魔が入って来る呪力の塊が向かって来るが、全て切り祓う。しかし数が多い全方位からやって来るが、塚田さんが上手くコントロールして頭を押さえられない様にしてくれる。頼もしい存在だよ本当に……頭頂部の上まで来た! ここからなら狙える!! 足の三角剣を切り離すと市長めがけて落下して行く! 市長を良く見ると既にニンゲンではなくなっていた。当然の報いだ! そこ目掛けて神気を限界まで込めた神三角刀を突き刺す。

「グゥウオオオオウウオオオ!!!」

「穿けぇええええ!!」

 頭から下まで巨人を穿き通すと瓦礫となって崩れ始めていく

「わっ私は、まっまだ……」

「往生際が悪いよジジイ、あの世へ行けるかは知らないけど……せめてアタシの手で消えな!」

 最後に茉希ちゃんが飛んで来て、ニンゲンではなくなった祖父に三角槍でとどめを刺して俺を空中で拾ってくれた。

「師匠無事だよね?」

「ごめんよ茉希ちゃん……」

「良いってば! あんなの家族でも何でもないよ」

 そのまま塚田さんの前まで飛んで戻される。

「流石にもう動けません……止めは?」

塚田さんが膝を付く

「茉希ちゃんが刺したよ」

「俺の心配もしてくれよ!」

 鷲尾さんもボロボロだ、ずっと塚田さんを守っていたんだ皆凄いよ。

「オッサンは頑丈でしょ!」

「ひっでぇなおい!?」

 さて竜巻は収まり始めている、ヒエとヤエが車をそっと降ろしている。お疲れ様!

 後はコイツだ黒い結晶が残っている、触れてみるが弾かれる。でしょうね……悩んでいると、ヒエとヤエがやって来る。

「お疲れ様みんな!」

「なぁコイツどうするよ?」

 黒い結晶を指差すと、女神達は悩み始めた。

「なんか良いアイディア内の?」

「ぶっ壊す!」

「茉希ちゃんはちょっと待とうか」

「もう一度封印出来ないんですか?」

「駄目ね……京子の言いたい事も分かるけど、ここまで黒く染まってしまったらもう封印しても……」

「壊すか! 俺も茉希ちゃんの意見に賛成だ」

「多分、今ここにある武器では壊せない」

「お前等の神様パワーでも駄目なの?」

「忘れたの? これを創ったのが私達で破壊出来ないから封印したのよ」

 体内から結晶を取り出して黒い結晶と見比べていると、ふとある考えが思いつくが。ものは試しと思い近づくと……この反応は……行けるか? 嫌だなぁこれやるの……嫌な予感に襲われる、だがこれならば上手くいくはず。問題は……

「なぁ対消滅って知ってるか?」

「何よそれ」

「簡単に言うと陰と陽の力をぶつけて丸ごと消し去るんだよ、そうすると……新し……」

「ふーん……ちょっとまって! それじゃ」

「ヒエ、ヤエ俺にありったけの神気をよこせ」

「駄目よ! アンタは、またそうやって……今度こそどうなるか分からないのよ!」

「そうよきっと他に方法が……」

『動くな』

 強い言葉は力を持つ、その一言で全員動けなくなる。

「ヤガミてめぇ!」

「ごめんよ鷲尾さん」

「やめてください! ヤガミさん」

「塚田さん家族を大事にね」

「師匠が犠牲になる何って絶対ヤダ!!」

「茉希ちゃん元気でね」


「こっこないで近づかないで……来たらコロスわよ!」

「出来ないくせに」

「ねぇ考え直して! そうやって消滅したら……もう神の座に戻れないかも知れないのよ!」

 二人を纏めて抱き寄せる。

「ありがとうございます、ヒエ様ヤエ様どうかこれからもこの地を御守りください」

「きっとこの時の為に俺は存在して、この結末を迎えてハッピーエンドだ」

「いやよ! アンタがいなくなったらなにが! ハッピーエンドよ!」

「そうよ! 私はアンタが……」

 ヤエが言い終わる前に神気を吸い取る。これで動けるのは俺だけだ。自分の分身でもある結晶に、ありったけの神気を注ぎ込むと眩しく蒼い光を放つ最後にここで、対消滅を起こす訳には行かない。塚田さんに近づくとオデコを合わせる。

「ありがとう塚田さんコツがわかったよ」

「やっやめてください! ヤガミさんが消滅したら御二人が……御二人の気持ちがわからないんですか!!」

「大丈夫だよ、少しお別れするだけだ」

「神様だって言っても女なんですよ!!」

「やめて京子! それ以上言わないで!!」

 ヤエが泣いている、ヒエは俯いて塚田さんの顔が泣きそうになっていた。

「帰って来れたら聞くよ、じゃあね」


 神三角刀を取り出し、黒い結晶に突き立てると一気に上空まで舞い上がる。何処までも高く高く空の青さが黒くなる迄飛んだ。これで輪廻から外れた俺はもう神の座へと戻ることも無いかも知れないけれど……対消滅を起こせば別の物質となる、上手く行けば……結晶を取り出すと黒い結晶に殴りつけた。


◇ ◇ ◇


 ヤガミさんが飛び去って小さくなっていくと身体が動くようになりヒエ様とヤエ様の元へと向かって行くと。泣いていた……普段あんなに悪態をついていても、きっと……

「愛していたんですね?」

「ヤエはね……まぁ私もちょっと位には……」

「最後なんですよ」

「すっ好きだったわよ、ヤエ程じゃないけどね」

 ヤエ様が両手で顔を覆い泣き崩れている。

「こんな感情知らない! こんなに苦しいなら! 辛いなら! 出会わなければ良かった!」

「もうどれぐらいの年月をヤガミさんと?」

「百年ぐらいね……」

 ヒエ様が答える……百年! その度にヤガミさんは何度も時間を遡って繰り返して……ヤエ様そんなにもヤガミさんの事を……

 「あっ……」

 ヤエ様が空を見上げると全員が見上げる、丸く巨大な閃光が雲を切り裂き光っていた。ヤエ様の感情が爆発した……

「いやああああああ!! 何でよ! どうしてこうなるの!!」

 ヒエ様が必死に慰めているがヒエ様も泣いている、茉希も私も涙を堪えるのに必死だった。

 ただ上空に新しく光る結晶が生まれた事は誰も気づいていなかった……



 

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