第9話『再会』
叩き付けるように、お手水を塚田さんがぶっかけた。そして俺は結界の中へ神三角刀を手に持ち入っていった、茉希ちゃんにまとわりつく『それ』を切り払っていく。
良い感じに弱っていく『それ』から茉希ちゃんへの纏わりついている部分が弱まるのを確認して、茉希ちゃんを見ると既にミイラの状態ではない。普通に寝間着姿へと戻っている。良しこれならばと思い、俺は彼女の胸ぐらを掴み、効果はあるか分からないがオデコを一度合わせて結界の外へと思いっ切り突き飛ばす!
塚田さんが彼女を抱きとめる
「一応、御神酒かお手水飲ませてください!」
俺がそう言うと塚田さんは、彼女を車へと運んでいる。
◇ ◇ ◇
彼が私の方に茉希を突き飛ばしてきた、それを抱き止める。病院で見たミイラの状態ではなく、普通の女の子の姿だ。
「一応、御神酒かお手水飲ませてください!」
彼がそう叫んだ、茉希を車へと運び荷物から御神酒とお手水を出す。ふと未成年飲酒になるかもと疑問を感じたが、今は緊急事態だそう思い、御神酒を口元に運び口の中へと少し流し込む。コクリと飲み込む音が聞こえた、そのままゆっくりと全て流し込む。そして茉希の全身がほのかに一瞬光った、胸に手を当てて見る鼓動がある。もう大丈夫だと思い、彼の方を向く。そこには『呪い』に取り込まれていく彼の姿が見えた。依代を失った『呪い』が彼を新たな依代にしようというのだろうか。
「ヤガミさん!!!」
そう叫ぶがでも確か……彼は私に向け親指を立てていた。
△ △ △
「本当にきりがない!」
茉希ちゃんを結界の外へと出した事で、狂ったように結界内で暴れている。俺は切り払い続けたが、俺の方も体力の疲れが見え始めた『これ』が放つ禍々しさに心も傷つく。もう何度目だこれ!
どうする? 『これ』は今依代を失っている、俺に取り憑こうする筈だ。まぁ『これ』の気持ちも分からなくも無い。『これ』は俺を取り込もうと大きく被さる様に一回り大きくなり頭上から、被さってきた。
その一瞬、身体の力を抜きそして思った、『これ』に感情や意思は有る。もともとこれには女神との約束もある、呑み込まれアイツらに会ってオデコを合わせて終わりだ。
俺は決心し、呑み込まれる瞬間塚田さんに向けて親指を立てた。
◇ ◇ ◇
街が少しづつ動き始める、彼は『あれ』に呑み込まれた。そしてそのまま動きを止める、じっと見つめて見るが変化が無い。
市役所の職員が騒ぎに気付いたのか、何人かやって来る。もうそんな時間かと時計を見た午前九時、彼等にも『これ』が見えているようだ腰を抜かしている職員もいる。私は
「この駐車場付近を閉鎖して下さい!後は野次馬が近付かないよう警察にも協力を!」
と指示を出す、直ぐ様電話を掛ける職員もいる。
「人が近寄らないように!」
まだ『これ』は存在している、『それ』を睨みつける。後は彼次第な状況だが結果を知っているだけにもどかしい。連絡を聞きつけたのか市長がやって来た。
「やったのかね塚田君! おお茉希無事で!!」
そう言うと、私から茉希を引ったくる。どこまでも愚かでめでたい
「さあ早く孫を病院へ!」
本当に随分とおめでたい市長である。
「すみません、まだ終わっていませんお孫さんを病院へ運ぶのは早計です」
「何を言う孫はここにおる、綺麗な身体に戻っているではないか!」
「ですが! まだあそこで『呪い』が存在しているんです」
「そう言えば君が選んだ男が居ないな、死んだか?」
「いえ『そこ』に」
と指をさす
「使えない人間だったか、所詮は【生活保護受給者】のクズだったか、そんな事より孫を早く!」
「ッつ!?」
確かに彼は【生活保護受給者】だ私が選んだ。私の所属部署は健康福祉課、生活保護受給者から選んだのだ別に死んでも家族以外気にする事が無いから。
あの日市長から告げられた言葉を思いだす
「どうせ生活保護受給者なんてものは減った方が良いだろう? 『呪い』で死ぬなんて勤勉に働いている人間よりも良いだろう?」
「保護費を給料だと思って、精々働いて貰おうじゃないか。受給者を減らす事にもつながるかもな!」
今思い返してみれば内輪の話ではあるが、随分酷い話である。無論彼を選んだ私にも責任はある。だが彼はここ迄事態を進めてくれ、私の呪いも解いてくれた。そして今もきっと何かをしているのだろう感謝しかない。
そんな彼に対して放たれた言葉に激しい怒りを感じる。覚えておきなさい……基本的に職員として市民と会話をする時私は、確かに冷たい人間だったかもしれない。だがそれはあくまでも職員としてだったからだ。
いや今は、そんな事で言い争う場ではない。いつもの様に私は。
「市長どの道、病院に運ぼうがどうしようが全て彼に掛かっています、彼が負ければ恐らくこれ迄のとは比べものにならない『呪い』が発生します」
「それに市長、貴方にその時色々な覚悟は出来ていますか?」
△ △ △
俺は闇の中にいた地面がない、どうやら『あれ』の腹の中と言ったところか。神三角刀が光っている、これが俺を守ってくれている。不意に引き寄せられる、どうやらお待ちのようだ俺は引き寄せられるままにしていた。もうここまで来てしまったのだから、それにしても……
「お前は恨んでいないのか裏切った人間を」
「お前は憎くないのかお前を利用してきた人間を」
「お前は裏切られ続けた信じていた人間を」
「お前は」
さっきからこれの繰り返しばかり聞こえてくる、いい加減ウザい俺は『それ』の方に対しての方の怒りが色々と溜まっていた。
そして、『それ』である彼女と再会となった。どす黒い気の様なもので身体を覆っていた、彼女が語りかけてきた。
「お前は何故人間を憎まない? 心の中では憎悪が溢れそうになっているではないか」
「私には分かるお前の無念さや恨み憎しみの心を……」
そりゃそうだ俺達は三位一体だからな。そこまで聞いて俺は、黒い気に向けて神三角刀を振り下ろす。
「ぐがっ!?」
「ああそうさ俺は憎んでいたさこの世を人を、でもな」
「そんな俺でも助けてくれる人がいた、呆れながらも笑って迎えてくれる人がいた。だったらそれで充分だ! そんな気持ちがひと欠片でもあれば別に何てことはない」
「だからヒエはそんな殻に閉じこもってないで出て来やがれ!」
『それ』を切り裂く、弱々しい光が放たれる。そこにはもう動かないヤエを抱き締めているヒエが居た。
「私達は元々二人で一つの存在だった」
語り出したが概ね聞いた話だ、別に何とも思わない。
「で?」
神様扱いするつもりなんてこれっぽっちも無い。
「えっ!?」
「だから呪ったんでしょ?」
「私の話を聞いてくれるの?」
「そんな事より動くなよ?」
神三角刀を構える、ヒエは何かを感じ取ったのか黒い靄を張り巡らせる。悪いねこの時の為の神三角刀なんだよ……靄に突き立てる!
「ぬぅああああああ!!」
「きゃああああ!!」
「どっせい!」
靄を斬り裂くとガタガタとヒエが怯えていた。
「何で人間にこんな力が……」
「動くなよヒエ」
「呼び捨て!? って言うか何で私の名前を……ちょっと近寄らないで!」
「じゃあヤエから行っとくか……」
「何でヤエの事まで!?」
「愛しのヤエを復活させたいだろう? 黙って見てればいいよ」
呪力全開のヒエを神気で拘束する。
「いやっ! やめてよ! 酷い事しないで!」
ヤエの頭をおれの正座した膝の上に乗せるとゆっくりとオデコを合わせる。ヤエの目が開き蒼く光りだしヒエは驚いているが無視する。
「良くやったわタケシ!」
「おう!」
ハイタッチを交わすと、次は……
「ヒエ覚悟を決めなさい」
「ヤエどうしちゃったの? 復活は嬉しいけど……ちょっと抑え込まないで!!」
「タケシさっさとして!! ヒエ動かないでね暴れたら接吻する事になるから」
「それだけは絶対にいやあああああああ!!」
「じゃあ暴れんな行くぞ!」
ヒエとオデコを合わせるとヒエの身体がガクンと項垂れ目が蒼く光りだす、ヤエと見守っていると起き上がり。満面の笑みで
「ヤエ! タケシ! やったわね!」
三人共に笑顔になる
「これでお役御免ってとこかな、今回は特に疲れたよ……」
「まだよ終わってない」
まぁ神様の怒りを買った人間が居る、ヒエは外の様子を見せてくれた。
「後はあの男の始末ね」
「それなら大丈夫だよ。きっと鷲尾さんがそろそろやって来る、ニンゲンはニンゲンに裁いて貰おうよ」
「それもありか……それよりもタケシ、アンタ人の記憶をホイホイと過去と未来を同調させたわね?」
「まずかったか?」
「本来なら有り得ない事だけど……まっ終わりよければ全てよしって所かしらね!」
「どうせ私達が元いた神の座へと戻れば、記憶も消えて新しい未来が待ってるはずよ」
「じゃあこの『呪い』を消し去ってもらおうかヒエ、ヤエ!」
「「まかせない!」」
二人が手を繋ぎ祈ると大きな光の奔流が発生し、ヒエが生み出した呪いを浄化させていく。ヤッパリコイツら神様なだけはある。
「うるさいわよ!」
おっとコイツらに隠し事は出来ないんでした……おっ空が見えて来た雲ひとつない青空が広がっている。おいお前ら分かってるな?
「大丈夫よヒゲと京子には見えるぐらい迄には姿を消すわ」
「良し凱旋だ!」
こうして呪いは消えて、その中央に俺は立っていた。
「ただいま塚田さん! 終わったよ!」
「おかえりなさいヤガミさん……とヒエ様ヤエ様!」
「しっ! コイツらの事は見えてないふりをして下さい!」
「はっはい!」
「おい! もう茉希は、大丈夫何だろうな! なら早く病院へ……」
「悪いけど市長さんアンタは、もうオシマイだよ」
タイミングよく鷲尾さんと検察がやって来ると、市長に逮捕状が突きつけられた。何やら抵抗しているが、証拠の元秘書の自白メッセージと名簿が決め手となり大人しくなると思ったが……市長が突然暴れ始めた普通のニンゲンの力じゃない! ニンゲンが軽く吹き飛ばされる程に強力な力だ、警官隊が吹き飛ばされて行くと鷲尾さんが必死に取り押さえようとしているが……
「ヤッパリこうなるか……」
「どういう事ですかヤガミさん!」
「昨日見つけた証拠、誰があんなにも『呪力』の強い場所に隠したと思います?」
「最初から? 十五年前から!? 市長は……」
「ヒエ、ヤエ一つ聞くがこの時間軸にも結晶は存在するな?」
おい、目を合わせろ逸らすな!
「あるわよ! でも結晶が封印された場所が何故わかったのかしら……」
警官隊を吹き飛ばし終えた市長が近づいて来る。ムカつく程ニヤけながら近付いてくると小さな人影が飛び出していく
「知りたいか……げぶっう!」
「こっっの恥晒しのクソジジイが!!」
茉希ちゃん霊力がこもった渾身のボディーブローが市長の鳩尾に決まった。もう動けるのか……ヤッパリ凄いな茉希ちゃん、市長がピクピクと痙攣している。茉希ちゃんが俺を見つけると。
「しっしょ〜う会いたかったよう!」
抱きついてきた、が相手は中学生だ丁重に引き剥がす。
「あっそうだね! ごめんよ師匠アタシ今中学生だっけ」
「まったく……久しぶり? って事で良いかな茉希ちゃん」
「うん! キョーコもオッサンも若いなぁ!」
「酷い言われ様だな……なぁ京子ちゃん」
「まぁいつものことでしょう」
皆で談笑していると……市長の身体がビクンと跳ね上がり飛び去って行った。
「なに! 飛んだ?」
「違うわ! 引き寄せらたのよ! 方角は……まさか!」
ヤエが驚きながら伝えた。そうスポーツセンターだった。
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