大学生なら麻雀打ってろ

 カントリーマアムがまだ親指の爪くらいの大きさくらいだったころ、富士の樹海に隕石が落ちた。それは平安時代のカントリーマアム、つまり箱ティッシュくらいの大きさだった。日本では隕石が珍しいことから地質学者がこぞって研究に押しかけ、調査が始まった。しばらくして、学者たちは自らの体の異変に気が付いた。


 異能を獲得してしまったのである。


 研究がすすめられ、異能は学力と相関することが明らかになった。科学知識を勉強すればするほど、より強力な科学に反する異能を操れる、というわけだ。

 しかし、異能は人によって内容が違い、危険な性質を持ちうる。現在では法整備が進み、18歳以上にならないと免許を取れない。自動車免許みたいなものだ。

 

 そして自動車も同様だが、異能を操作する能力は才能に大きく依存する。練習すればそりゃ強くなるが、まぎれもなく才能がものを言う分野だ。

 各大学は才能ある学生を集め、異能の研究を始めた。つまり学生が実験台であり、学生は手荒な扱いを受けることもあった。もし自分が死んだら、動物慰霊祭でマウスと一緒にまつられるかもしれないという不安もあった。


 異能を操る学生たちは次第にストレスを貯めはじめ、大学に恨みを持つようになった。そして、異能を持つ学生たちは、大学に異能と恨みをぶつけるべく、集会を行うようになる。

 大学爆破サークルが誕生した瞬間だった。


 それから十年。カントリーマアムはラムネくらいの大きさになった。競技大学爆破は極めて一般的なスポーツとなり、大会も増えてきた。競技を公平かつ円滑に行うため、インカレの上位陣が集まった競技大学爆破運営委員会も作られている。


 そして、その委員会がこれだ。

「……みかどさん、緊急会議でも麻雀するんですか?」

「もちろんさ。委員会の会議は麻雀を行いながらと決まっているんだよ」

「決めたの、どうせ帝さんでしょ?」

「うるさい。濱、その七筒チーピン、ポン」

 はま伊月いつきの捨て牌にくめみかどの手が伸びる。


「で、いったい緊急事態って何ですか?」

「横浜大学に来た爆破予告の件だが、大学側との交渉は決裂した。つまり、我々は警察の捜査を受けるということになる」

 帝は右手で牌を切りながら、左手で器用に一枚の紙を取り出した。大学に来たという爆破予告のコピーである。


「警察!?」

「我々はあくまで競技ヽヽ大学爆破を行うアスリートなんだがな。勘違いした輩も世の中にはいるらしい」

 真っ先に驚いたのは卓を囲む面子メンツで紅一点の三井みつい、のんびり頷いているのが対面トイメン稲葉いなばだ。


「そんな中で、のんびり夏合宿なんかやっていいんですか?」

 そう、緊急会議の裏では夏合宿と銘打って、厳しい走り込みだのなんだのかんだのが行われている。

「こちらは無実という立場だ。合宿をやめるわけにはいかない」

 理牌リーパイをしていた稲葉と三井の手が止まる。爆破予告で横浜大学に呼び出され、さっき岐阜に帰ってきた帝と濱が開いた緊急会議とあって、てっきり合宿を中止するものと思っていた。


「警察の捜査の中で合宿を行うなんて不可能ですよ……。帝さん、あんた元々狂人ですけど、さっさと真人間に戻ってくれません?」

 心底心配しているという口調の三井だが、言葉の内容は非常にとげとげしい。


「ということで、我々が犯人を捕まえて警察に突き出すことになった」

「何が『ということ』なのか一ミリもわかりません」

「つまり、合宿は実行したまま、我々四人が先に動いて犯人を捕まえ、潔白を証明するということだ」

「……可能ですか?」

 じっと聞いていた稲葉が首をひねる。

「大丈夫だ。我らが四傑よんけつを舐めてもらっては困る」

 インカレ優勝の帝。準優勝の三井。三位の稲葉。四位の濱。彼ら四傑よんけつは、全員が全員、本気を出せば人一人平気で殺せるくらいの異能を持っている。彼らにかかれば――。


「いや、俺らは爆破の異能しかないんで。犯人を捜す異能なんてないです」

 ツモって上がった稲葉が牌を倒しながら冷静にツッコミを入れた。

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