哀・漂流者
門前払 勝無
初
「哀・漂流者」
貴男はそのままでいい
貴男はペンを持っていれば良い
貴男は雲のように風に身を任せてふぅらふぅらと
貴男はいつも笑っていて欲しい
そのままの貴男で居て欲しい
悲しまないでね
目を閉じるまで笑っていて
順子は涙を優しく流しながら目を閉じた。
俺は何も出来なかった。
順子に何もしてやれなかった。
自分勝手に順子を振り回しては泣かして悲しませていた。
順子の為に一発当てて贅沢させてやるんだと、誰にも読まれない小説を書いていた。つまらねぇ駄作を順子はいつも傑作が書けたねって微笑んでくれていた。スーパーでパートして夜はスナックで働いていた。俺は書けないと言い訳しては順子の稼ぎで飲み歩いていた。
昼のパートと夜のバイトの合間で俺の夕飯を作ってくれていた。
治療室から霊安室へ運ばれた。
薄暗い霊安室のベッドで寝ている順子は綺麗だった。
後悔しても、もう順子は居ない。
冷たくなった順子の手に初めて一緒に過ごした誕生日に買ったペンを握らせた。
「次に生まれ変わっても俺と一緒になってくれるか?」
俺は順子の為にいつも笑って過ごそうと思う。
警備員の仕事を初めて空いてる時間でつまらねぇ駄作を書いている。書いた原稿は順子の墓に持って行って順子に読み聞かせるのが俺の楽しみになった。何だか卓袱台越しに順子が笑いながら読んでくれていたあの姿を思い出せる気がしている。
「また来るなぁ、明日は休みだから一杯飲んで帰っても良いかなぁ?」
順子が微笑んでる気がする。
小さい机でタバコを吸いながら書いてる俺の後ろ姿を優しく見つめてくれている順子が見える。
おわり
哀・漂流者 門前払 勝無 @kaburemono
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