落ちてたスマホを拾ったら……
Phantom Cat
*
その日、僕は日直だった。
放課後一人で残り、黒板拭きをきれいにしたり椅子と机をきちんと並べ直したり、といったミッションをようやくコンプリートして、教室を出る。
……?
廊下に何かが落ちている。近寄ってみると……それは、スマホだった。そして……
それが誰の物か、僕には一瞬で分かってしまった。
ピンク色の、かわいらしい動物をあしらったデザインのケース。間違いない。
これは、同じクラスの
それを拾い上げ、電源ボタンを押す。
待ち受けは普通のデジタル時計だった。画面をスワイプ。
え……嘘……
アイコンが並んでいるトップメニュー画面が表示された……
ロック、かけてないのか……?
まったく、不用心にも程があるだろ……スマホを落としたばっかりに主人公が窮地に陥るストーリーの映画、知らないのかよ……
落とし物を見つけたら、職員室に持って行かなければならない。それに、他人のスマホの中身を見るなんて……犯罪行為に近い。やっちゃいけないことだって、よく分かってる。
だけど……
実は、僕は田室さんが気になっていた。
少しクセのあるセミロングの髪を、特徴的なヘアクリップでまとめている。ぱっちりとした大きい目が印象的で、端整な顔立ち。ちょっと肌が荒れてるけど、僕には気にならないレベル。正直、かなり好みのタイプだった。
彼女の性格は、おとなしい方だと思う。いつも決まった友だちと一緒にいるけど、大声で騒いだりしてるのは見たことがない。同じクラスでも、僕とは全く接点が無かった。お互い話しかける理由もないし、少なくとも僕自身は、用も無いのに彼女に気軽に話しかけられるような性格じゃない……
の、だが……
この前グループ活動でたまたま同じ班になった時、彼女とWeb小説の話で思いの
それはともかく。
もちろん以前から彼女のことは「かわいい子だなあ」と思っていたのだが、その時から僕は彼女がかなり気になる存在になってしまった。好き……と言えるかどうかはまだわからないけど、この気持ちはたぶん、限りなくそれに近いような気がする。
だから、彼女のスマホの画面にずらりと並んだアイコンの中に、「小説」と書かれたソレを見つけてしまった時、思わず僕はそれをタップしていた。彼女が書いている小説を読んでみたい、という欲求に勝てなかったのだ。
ややあって、テキストエディタの画面が開かれる。どうやら彼女はエディタに下書きをしてから小説サイトに投稿しているらしい。これはその下書きなのだろう。
……。
それは、彼女と同じ学年の「タクマ」という男子高生が一人称で語るタイプの恋愛小説だった。「トキナ」という恋人との出会いから、告白、デートといった甘酸っぱい日々が、意外にしっかりした筆致で描かれている……
の、だが……
ええと。
「トキナ」って、田室さんの下の名前だよな……
そして……
僕の下の名前も……「
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