【10分で完結】憧れた先輩は、世界一の馬鹿だった
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第1話 涙と汗
「やぁ、ずいぶんと酷い顔だね」
叶江 美紅(かなえ みく)は、俺の憧れの先輩は、そう言った。
「そりゃ随分酷いこと言いますね?先輩みたいな綺麗な人に馬鹿にされたら、僕泣いちゃいますよ?」
俺、佐藤 直哉(さとう なおや)は取ってつけたような笑みを顔に貼り付け、必死に感情を殺していた。
だってそうだろう?憧れた人に、恋焦がれた女の子に、情けないところを見せたい男なんていないだろう?
「君にそんなニヒルな笑みは似合わないなぁ」
そう言って、先輩は1歩ずつ近づいてきて、そして、そっと頬に触れた。
まるで、小指からゆっくりと包んでいくように。
まるで、形のないものに触れるように。
まるで、心そのものに触れるように。
その瞬間、自分の中で何かが外れる音がした。
俺は、それをなんとかして繋ぎ止めようとする。ただひたすらに、必死に、崩れないように。
あまりに一生懸命すぎて、少し汗をかいてしまったかもな。
そうだ、これは汗だ。だったら、別に隠すほどのことでもない。男の子なら、汗くさいぐらいが、一生懸命でがむしゃらなぐらいが、ちょうどいい。
「君は、汗っかきだね」
そう言って先輩は、なぜか目からしか出てこない汗を、そっとハンカチで拭った。
「なにがあったの」
優しく、慈しむような、そんな声が聞こえて、
「うっ、ぐ、がぁっ」
完全に崩れてしまった。一生懸命耐えてたのに。がむしゃらに我慢してたのに。1度認めてしまった涙は、止まることを知らなかった。
「じつ、は、おばあちゃんが、っ、事故でっ、」
俺は生まれてすぐ、両親がいなくなり、おばちゃんに育てられた。おじいちゃんは俺が小学校に入るのと同じくらいに旅立った。だからこそ、高校生になる今の今まで、1人で育ててくれていたおばあちゃんが、居なくなってしまったことが何よりも辛いんだ。
「っ、そう、それは、、つらいね」
それから先輩は、それ以上何も言わずにただずっとそばにいてくれた。
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