1話『強制勧誘』
「やあ! キミが
と、校門の前で俺の前に立ちはだかる人物を、俺は知っていた。
「あ、人の名前を呼んでおいて、名乗ることを忘れていたよ。ボクの名前は──」
「
と、後ろに気だるそうに突っ立ってんのが、
「おお! ボクのことを知っていてくれているのか! 光栄だなあ」
「まあ……」
俺の通う都立あかねヶ丘高校。
ここにいて、”財津 幸一郎”の五字熟語を知らないヤツなんていない。
成績こそ浮き沈みを繰り返しているが、それ以外は完璧も完璧。
教師からの信頼も厚く、合言葉は「困ったらザイツに任せろ」だ。
入学して1ヶ月しか経っていない俺たちの間でも時々ささやかれる、その名前。
しかし、そんな人間が、俺に何の用事があるんだ?
「キタムラ君に名乗るのを先取りされてしまったが、ボク自身の口から、もう一度挨拶させてくれ。言論部部長の財津 幸一郎だよ。よろしく。それと、副部長の倉石 真晴」
「ちーす」
学校一の凸凹コンビ──
一度も染めたことの無さそうな黒髪を、カッチリ短く切り揃えているザイツとは正反対な見た目をしているクライシを見て、俺は心の中でつぶやいた。
ザイツも、どうしてこんなヤツなんかとつるんでんだろう。
「ザイツさんとクライシさん。で、何の用ですか? 」
「よくぞ聞いてくれた、キタムラ君! 」
ザイツは一列に綺麗に揃った白い歯を惜し気もなく見せて笑った。
「キタムラ君、ボクたちは、キミをスカウトに来たんだよ! 」
「スカウト? 」
「ああ、そうさ。キミを我が言論部へね。どうだろうか? 」
「ど、どうだろうかって言われましても。活動内容をまず説明していただかないと」
「いやあ、キミは言論の才に溢れていると思うがね。な、マサハル、お前もそう思わないかい? 」
「オレは野郎には興味ねえっす」
「ほら、マサハルも同意だよ」
「いや、あの──」
「じゃあ、放課後、面談室で待ってるからね。場所は分かるよね? 1階、職員室の右隣りのこぢんまりした部屋だからね。そこが我が言論部の部室なんだ」
「あの、まだ──」
「いやあ、キミという存在に出会えてボクは嬉しく思っているよ。これからよろしくね、では、また」
「あ──……」
こうして、俺の入部先は、半ば強制的に決まった。
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