和解

 ...どうして?どうしてこうなった。


 まるで魔王に遭ったかのように悲鳴を上げながら俺から距離をとる討伐者たちの姿を、俺は固まった笑顔のまま見ていた。


 「...ルナ?これはどういう状況なんだ?」


 思考が停止している俺は隣で苦笑しているルナに尋ねる。


 「あのね、クロス。討伐者になりたての人間が、トップクラスの討伐者、しかも種族的に人間より強いはずの獣人を倒しちゃったのよ?そりゃ異端扱いされるわよ...」


 ...うん。これ俺が悪いな。


───────────────────


 討伐者に話を聞こうにも近づくと逃げてしまうため、職員の方に話を聞いた。

 俺が討伐者になった初日に騒動を起こしたのも問題だったが、なにより倒した相手が東ギルドの統括者、ジェネルだったのが悪かった。彼ほどの権力者を倒した人間の近くにいたら、厄介ごとに巻き込まれると思うだろうからな。

 おまけに人格が変わったかのような気狂いっぷりを見せつけられたのだ。討伐者たちが俺を怖がるのも納得だ。正直、俺も当人でなければ近づきたくないもんな!


 「まあ、仕方ないさ!別の方法を考えようか!」

 「本当にクロスって前向きよね...」


 ここで勧誘するのは無理だろう。そう考えた俺は出口に向かって歩き出す。すると


 「おいおいちょっと待てよォ!おふたりさん。」


 聞き覚えのある声が向かってくる。

 振り向いた俺の先にいたのは、白毛の人狼、ジェネルその人であった。


───────────────────


 「...何の用でしょうか。」

 「おっと。今日はあのイカれた性格じゃないのか。本当にお前は戦闘になると人が変わっちまうんだな。」

 「まあそんなところですよ。」


 というか早く要件を言ってほしい。ジェネルを怖がったルナは俺の後ろにピッタリと隠れている。

 そんな俺の視線を感じ取ったのか、ジェネルはおもむろに口を開く。


 「今日はお前たちに謝罪に来たんだ。本当に関係ないことに巻き込んじまった。すまなかったな。」


 そう言うと深々と頭を下げた。

 周りからどよめきが起こる。それも当然だ。暴君として恐れられていた彼の謝罪など、聞いたことがないだろう。

 同じく驚く俺を見据えて真剣な表情でジェネルは続ける。


 「お前に支配者のあるべき姿を語られてわかったよ。俺は間違っているってことが。

 俺は東ギルド統括者のプライドに賭けて、体制を改めて逆境の魔窟をどのギルドよりも早く攻略してみせる。その時が来たら、お前にも力を貸してほしい。」


 そう言って再び頭を下げた。


 彼もただの討伐者の一人に過ぎない俺に謝るなど、かなり葛藤したことだろう。それでも詫びたのは俺の力を利用するためだ。攻略のためなら自分を犠牲にしてでも戦力を得る。統括者として責任のある行動なのだろう。

 俺は少し考えた後、口を開いた。


 「...俺の仲間を理不尽に傷つけたこと。それに関しては許しません。ですが、俺たちは同じ討伐者です。余計な確執は捨てて、協力したいと思います。ですから、こちらこそ。俺の力でよければ使ってください。」


 そう言って俺はジェネルの手を握った。

 向こうが誠意を見せたなら、俺も誠意で返すのが礼儀だろう。


 「そうか...ありがとな。そっちのお嬢ちゃんも本当にすまなかったな。お詫びってことで、これ受け取っといてくれ。」


 そう言って金貨が詰め込まれた袋を投げよこすと、出口へと歩いていく。するとふと何かを思い出したようにこちらを振り向き、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

 「仲間を探してるお前らに耳寄り情報だ。エールには腕利きの討伐者がいる。ジェントルっていう褐色肌のハゲ野郎だ。防御特化の槍使いなんだが、こいつがまたおかしな奴でな。女の味方を公言してエールで警備活動に協力してるだけで、魔王討伐にはちっとも興味を示さない。口説き落とすのは大変だと思うが、仲間にできたら相当な戦力になると思うぜ?」

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