初恋相手
炎猫幻
恋心
どーんとぶつかって、彼女に話しかける。
「
「仕方ないよ。私、
「もー、そういう冗談はダメだよ?」
若葉が眉尻を下げて言ってくる。冗談なんかじゃない。ちゃんと好きって思ってる。でも、この言葉はもう、若葉には意味のない言葉なのかもしれない。
好きっていう感情自体、脳が勘違いしてるからだって、いつかのテレビが言ってた。私もそう思いたい。この感情は意味がないから。
女の子に恋するのも、この感情を隠し続けるのもしんどい。
隠し続けるぐらいなら、言ったほうが楽になる。知ってる。でも、行った瞬間に若葉はどんな顔をするんだろう、引くかな、喜んでくれるかな、私もって言ってくれたらな・・・。
私も、って笑いかけてくれる確率は確実に少ない。だって、抱きついたり、好きって言っても若葉は曖昧に笑って、私のことを優しく怒る。そして、やんわりと私を拒否する。
きっとこんな感情を向けられる方がもっと気まずい思いをするし、私も、言ったことがきっかけで距離を取られるようなことになれば、泣き叫ぶようなことだけじゃ済まない。
言って関係が壊れるぐらいなら、言わないほうがいい。
「句伊譁?どうしたの?大丈夫?」
いつの間にか自分の世界に浸っていたらしい。若葉が心配して私の顔を覗き込んでる。
「ごめん。ちょっと自分の世界に入ってた」
えへへ、と適当に誤魔化す。
「本当に大丈夫?最近、そういうこと多いよ?」
若葉のことが好きで好きで、仕方なくて溢れ出してしまいそうなんだよ!と、今ここで叫べてしまえたらいいのに。
「うーん。ちょっと高校の生活にまだ慣れてないから・・・」
「あー。慣れないことしかなくて、生理ちょっと早く来ちゃったもん」
若葉は、ストレスがかかると、生理の周期が乱れやすくなる。
こんな無駄なことまで知ってるのに。絶対に若葉のこと、生理中でも安心させてあげられるのに。
ちょっとした話題で、こういう事を考える癖がついた私はもう通常じゃないのかもしれない。
ときどき、自分の思考にゾッとする。
「大丈夫?生理中なら、今日の体育の授業休めるけど?」
「どうしよう・・・。ま、大丈夫だよ」
「本当に?倒れても知らないからね?」
「大丈夫、大丈夫」
何回その大丈夫に騙されてきたと思ってんだ、と若葉のことを睨む。
若葉は仕方ないよ、という顔を作って肩をすくめた。
「ま、がんばろーね」
「おー」
「やる気ないね?」
「そりゃーね。どっかの誰かさんが腹痛がひどくなって倒れないか心配で心配で仕方がないからさ」
「うわあ。倒れても許してね?」
「やだ」
「え〜」
他愛のない話をして学校に向かう。
これが普通だ。この距離感が友達だ。そう考えると、安心できた。この距離感で。ずっと。ずっと。このまま。それが一番いい。
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