夏への憧憬
十夢村牙是流
第1話
夏となるたび、ネットでは青の作品が次々と乗せられる。そんな曲を聴くのは楽しいが、よく、私にはそんな夏が手に届かないということをどこか思う。
その曲らのPVの背景は決まって青を基調とした、どこまでも透き広がる空、同じくらい真っ青か、透明な海、それらに雲、星、列車、ひまわり、畑、田んぼ、神社、朝、ラムネソーダ、花火、夜。季語を瓶ボトルにつめこんで、そこから透かしてみせた景色をあつらえている。
その青に手が届く者は、果たしているのだろうか。誰かさんが抽出してくれた夏の概念、いな、私達が欲したというか理想である夏の憧憬を、キンキンに冷やした音符で奏でてくれるのである。その音符は鉄琴を軽やかにたたく。では、この憧れとした夏に手の届く人間はいるのだろうか。私はむずかしいかもしれない。
では、この届かないノスタルジーをどうすればいいのか。これをサマーコンプレックスと呼ぶ人いわく、気にしなければいいのだ。気にしないで、自分の夏を過ごせばいいらしい。白いワンピースを着た少女は基本いない。そもそもそんな少女が身の回りにいたこともないのに、その少女がいないことに喪失感を覚えるのは、やはり私達が夏に抱く憧憬のせいなのだろう。
さて、この人いわく、夏の憧憬を追わなければいいらしいが、では、追って過ごした夏はどうなるのだろう。森の中に社を隠した鳥居を眺めながら、スカイブルーとそれに負けじと輝く夏の樹々を背景に、少女とアイスを解かし食べる日を為す努力をしてみるとどうなるのだろうか。もしかしたらその少女も、案外こんなのを夢見て乗ってくれるかもしれない。相手は私であるが。
女の子と夏を過ごすこと自体は、可能かもしれない。というか、それがあれば遠い夏への憧憬に伴う、胸へ生まれる青によるもどかしさはずいぶんと薄れるかもしれない。
夏への憧憬を為すことはできずとも、自分の夏を過ごすことや、憧憬に近づいた夏を送ることは、動いてみればできるかもしれない。そしてその原動力こそが、夏の憧憬が持つ魔力のひとつなのかもしれない。
夏への憧憬 十夢村牙是流 @tomumuragazeru
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