第5話 若草色の小鳥と森の娘
■その5 若草色の小鳥と森の娘■
よく見るコマドリ位の大きさだった。
しかし、翼を大きく広げ飛ぶ姿は全身が若葉色に輝き、嘴は小さく赤かった。
あんな鳥は初めて見た。
いや、記憶のどこかに引っかかっている。
その姿はまるでこの森の一部のようだと、シオンは上を見上げ、先程まで数メートル先を飛んでいた小鳥を探しながら歩いていた。
街の料理屋の窓からその鳥を見つけた瞬間、シオンは自分の邸で見かけた人影を思い出し、近くに繋いでおいた馬で追いかけた。
しかし、森の入口で馬が二の足を踏み進もうとしなかったので、近場の樹に繋げてここまで歩いてきた。
とても静かだった。
先日の大雨の影響は余り受けていないようで、実りの季節らしく葉は赤や黄色に色づき、実を付けた木々や茂み、それらを啄む各種の鳥たち。
眠りの白き月に備え、食料となるものを集める小動物たち。
そんな光景は入り口辺りで終わり、今は赤く輝く月のようにしっかりとした緑の葉が生い茂っていた。
「魔女の森は、季節も関係ないのか?」
この森は国境にもなっており、近隣の街の者たちは『魔女の森』と呼んで、近づこうとはしなかった。
どれくらい歩いたのか、どれだけ奥まで進んだのか、足元に落ちる木漏れ日はまだ明るいので、時間は思ったより経っていないと分かるものの、懐中時計を忘れて来たことに気がついた。
「歌?」
風が、幼い歌声を運んできた。
微かに聞こえる歌声を頼りに進むと、一気に視界が開けた。
太陽の光と温もりがたっぷりと降り注ぐその場所は、背丈の様々な草や花を食み、大きめの泉で喉を潤す動物たちがいた。
歌声は、その泉の中心から聞こえてきた。
シオンは誘われるままに足を進めたが、動物たちは意に介することなく、それまでの行動を続けていた。
後ろ姿が見えた。
地下から湧き出る水に腰まで浸かり、歌いながら鳥たちと戯れるその裸体は褐色で、シオンよりもだいぶ小さく肉付きも悪かったが、肌艶はとても良かった。
そして、耳が隠れる程の髪は豊かに波うつ若草色だった。
「森の娘・・・」
シオンのつぶやきを、風が運んだ。
鳥たちと戯れていたその姿が、弾かれたように振り返った。
そして、目が覚めるような緑の猫目がシオンを捕らえた。
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