第3章  見知らぬ世界 〜 気付き(2)

 気付き(2)

 



 ――じゃあ、俺が余計なことをしなければ……?

 もし瞬と出会っていなければ、あの少女はあの夜死なずにすんだのかもしれない。 

 ――ちょっと待て! だとすると……あの屋敷であったこともおんなじか? 

 思いもしなかったそんな気付きに、瞬は息ができないくらいに衝撃を受ける。続いてすぐ、おまえは悪魔か!? そんな矢島の声が頭の中で響き渡った。

 ――俺は……悪魔なのか?

 それとも、あまりにはっきりとした夢でも見てるのか? 瞬は混乱する頭を抱えて、そのままゆっくり立ち上がった。足はちゃんと地に着いていて、手で触ればその感触もちゃんと伝わる。どう考えても、これが夢や幻だなんて思えないのだ。では目の前の現実はなんなのか? さっきいきなり現れ出た光景や、まだすぐ傍にいる喪服の2人も、あの光の揺らぎが変化した結果か? 瞬は何もかもが分からなくなって、再びさっきのマンションを見上げてみた。するとその時、視線の片隅で何かが動く。慌てて視線を元に戻すと、遠くに見える景色が明らかに歪んで見えた。

 ――またか!?

 身構える瞬の視線の先で、大空と家々の風景が見る見る混ざり合っていく。それはまさしく、さっき目の当りにした現象と同じだった。グニュッと歪んだと思ったら、渦を巻き、やがて何もない空間に吸い込まれて消え失せる。そして元あったところには、まったく別の景色が現れ出るのだった。

 それまで彼の周りにあった風景とは、空を除けば殆どが茶や黒っぽい色ばかり。後はせいぜい薄汚れたような淡い色くらいだ。勿論庭に生えている木々の緑や、木蓮の白く清楚な花の色などが所々に見えはした。ところが新たに出現した光景は、まるでそんな程度じゃなかった。至るところ鮮やかな色彩が散らばって、言うなればまさに別世界。前方30メートルくらいから向こうは、今や見たこともない建物が隙間なく建ち並んでいた。家々はもうどこにも見当たらず、一面に広がっていた空さえも、天に伸びるコンクリートに邪魔され少ししか見えなくなっている。

 ――どうなってるんだ!?

 間違いなく混乱はしていた。しかし似たような現象を経験しているせいか、今回は少しだけ冷静でいれた。さっきとは違って、瞬は怖々後ろを振り返ってみる。すると後方には何の変化も感じられず、木造の民家が建ち並んだままだ。ところがだった。少しだけ安堵した彼が再び前を向くと、予想もしていない新たな恐怖が襲い掛かった。

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