第1章  日常 〜  死の予言(3)

 死の予言(3)


  

 ――あなたは、あの時の菊地くんなの? 

 はっきりとしたことがわからないまま、菊地瞬というクラスメイトを知って3ヶ月が経過した。確かに彼は、微かな記憶にある顔付きに、どことなく似ているような気はしたのだ。卒園式にも出てないし、卒園アルバムのどこを探しても彼らしき姿は見つからない。だからどうにも、はっきりするまでには至らなかった。ところがだ。2年生になって初めての期末試験当日、未来は信じられないところで菊地瞬を見かけることになる

 普段は毎日陸上の朝練があって、未来は朝5時には家を出て学校に向かう。しかし試験の最中だけは朝練がなく、その日はいつもよりかなり遅い時間に家を出た。そしていつもなら早足に駅まで歩きで向かうところを、時間短縮のつもりでバス停に並ぶ。するとそこに、菊地瞬がいたのだ。未来が並んだ更に5、6人前に、列とは逆向きに立って彼が未来の方に顔を向けている。彼は何事かを懸命に声にしていて、数メートル先にいる彼女に全然気付いていない。一緒にバスに乗ることになれば、それこそ真実を知る大チャンスだった。しかし結局、彼が同じバスに乗り込むことはない。それから5分くらいでやってきたバスの中から、未来は小さくなっていく彼の姿をただ見送った。

 バスがちょうど到着した時、菊地瞬は徐に列から離れて立ったのだ。その傍らには老婆の姿があって、彼はその老婆を負ぶって再びバス停から背を向ける。

 ――試験……大丈夫なのかしら?

 未来はそんなことを頭の片隅で思いながら、

 ――やっぱり、彼はあの時の菊地くんなんだ……。

 そんな確信に身体中が熱くなり、なぜか心臓がバクバクと高鳴った。もう間違いなかった。同じ歳で同じバス停から通っている。これで別の菊地瞬だというなら、そっちの方が逆に偶然が過ぎるだろう。

 ところがそれから、菊地瞬は1時限目が終わっても姿を見せない。それどころか、午前中最後の試験終了間際になってやっと姿を見せる。当然、たった2日間しかない彼の試験結果は、見事なまでに惨憺たるものとなったのだ。

 ――どうして今朝バス停で、あなたはバスに乗らなかったの?

 どんな理由で、あのおばあさんを負ぶって、いったいどこに向かったのか? 先生にこっぴどく怒られ、それでも遅刻の理由を口にしない彼は、きっと誰が尋ねたとしても答えてはくれないだろう。そんなふうに思えて、未来はその問いを口にしないまま日々悶々と過ごすのだった。そしてそんなことから二ヶ月後、未来は父親からある話を耳にして、なんと自ら彼の自宅を訪ねることになる。

「菊地くんてさ、今付き合ってる人とかいるの?」

 玄関に現れた彼が、慌ててその首を横に振る。すると未来は間髪入れずに、

「じゃあさ、映画でもどう? これから一緒に観に行かない?」

 そう言って、満面の笑みを彼へと向けて見せていた

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