第20話 アークガルドの戦い①

 アークガルドは活気に満ちていた。


 スレイン大国に拉致されていたと思っていたクリル姫とロマネスが無事に帰還したからだった。


 二人はすぐにアークガルドの王、ジョセフ二世に会うべく謁見の間に通された。ジョセフ二世は娘の無事な姿を見ると大いに喜んだ。


「よくぞ無事で帰ってきてくれた。父はうれしく思うぞ。ロマネスも姫を守ってくれてありがとう」


 ジョセフ二世に褒められてクリルとロマネスは嬉しかったが、今はそれどころではない。


「父上ご報告があります」


 ジョセフ二世は娘の真剣な表情にただ事ではない何かを感じた。


「まもなく魔王軍がアークガルドに攻めてきます」


 クリル姫の言葉に周りの家臣達がざわめいた。ジョセフ二世はそっと手を挙げ周りのざわめきを制してクリル姫に語りかけた。


「魔族が近くにいるという情報は入っていない。攻めてくると言ってもすぐにここには来れないだろう」


「奴らは姿の見えない兵器を使用しています。すでにデラウエア平原には魔族の大群が集結しています」


「なんだと!!」


 ジョセフ二世は真相を確かめるべく家臣の方を見たが、家臣達は一斉に首を横に振って分からないといった仕草を見せた。


「姿を消せる兵器というのは本当なのか? 疑うわけではないがそんな物聞いたことがないぞ?」


 ジョセフ二世は信じられないという表情をしてクリル姫を見た。


「ではこれでどうですか」


 そう言うとロマネスはいきなり誰もいない方向へ飛びかかって行った。いつの間にかロマネスは眼鏡のようなものを付けていた。ロマネスが飛びかかると何もない空間から、やめろー! はなせ! という声が聞こえて、いきなり男の姿が浮かび上がった。


「だれだ! そいつは? 捕まえろ!!」


 周りの兵士たちが駆けつけロマネスが捕まえていた男を捕縛した。


「何者だ? いつからそこにいた」


 ジョセフ二世の質問に男は答えなかった。クリル姫は王に向かって話し始めた。


「この世界以外のとこから来た異星人という者です」


「異星人? 聞いたことがない。なぜ、グルタニアと共謀している?」


「それは解りません。何か自分たちにメリットがあるのでしょう。このような機械で姿を消して我々の動きをグルタニアに流していたと思います」


「なぜ? お前達はそのことを知った?」


「ジークとパルタという異星人がいて、実は私たちもその方に救われました。その方から話を聞きました。信頼できる人間です」


「そうか解った」


 ジョセフ二世はしばらく考え込むとロマネスに聞いた。


「グルタニアの魔物はどれくらいいる?」


「おそらく十万は下らないかと思われます」


 ジョセフ二世は、そうか、というと黙って考え始めた。アークガルド城の兵士を全員かき集めてもせいぜい四万人いるかどうか二倍以上の戦力差はかなり苦しい展開になると考えたが、黙っていても始まらない、すでに戦況はかなり遅れてしまっていると考えるとすぐに行動に移すべく家臣たちに命令を下した。


「すぐに戦いの準備に取り掛かれ!! スレイン大国に向かった主力もこちらに呼び戻せ!!」


 王の号令により家臣達は一斉に王室から出て行った。数名しかいなくなったことを確認して、ジョセフ二世は弱々しく、主力が帰ってくるまで保てば良いが、とポツリと漏らした。クリル姫はそんな父を元気付けようと言った。


「スレイン大国にはミリア姫が説得に向かっています」


 それに、と言ってクリル姫は自信満々に王に話した。


「大丈夫お父様。こちらにはジークがいます。必ず彼がこの国を救ってくれるわ」




 ロマネスは戦争の準備をするべく謁見の間から薔薇十字騎士団の宿舎に向かっていた。階段を降りていると話し声が聞こえてきたので、何気なく立ち止まった。声の主はアークガルドの聖騎士団の団長を務めているミロードだった。


 ロマネスは初めての戦ということもあり、騎士としての心構えを聞きたくて近づこうとしたら、何人かの兵士と自分のことを話しているようだったので、立ち止まった。


「まったく。お嬢さんの騎士道ごっこに付き合うのも疲れるな」


「ああそうだな。薔薇十字騎士団なんてただのお飾りなんだから、しゃしゃりでるんじゃないよ」


「でもあの弱虫お嬢がよく姫様を助けられたな?」


「どうせ真っ先に戦闘から逃げ出して、運よく助けられただけの話だろ」


「まあ、多分そんなとこだろうぜ」


「それにしても父親のグルド様が浮かばれないな」


「そうか? 家系が立派な騎士の家系ってだけで騎士団長なんだから本望だろうぜ」


 聖騎士たちはそういうと笑いながら階段を降りていった。ロマネスは悔しくて悔しくて肩を震わせていた。大声で駄鳴りつけようとも思ったが、兵士の言っていたことが全て間違いではないことがロマネスから怒りを無くした。


 自分が不甲斐ないせいで父親まで馬鹿にされているのが情けなかった。ロマネスはこの戦争で必ず名声を揚げてやると心に誓った。




 

グルタニアのゾルゲルは不機嫌だった。グロリアを睨みつけイライラした口調でグロリアに聞いた。


「どういうことだ?グロリア。我々の侵攻は誰にも気づかれずに楽勝でアークガルドを攻められるのでは無かったのか?」


 聞かれたグロリアも目の前の光景が信じられなかった。アークガルド城から兵士が隊列を作って戦闘準備が敷かれていたのだった。ほんの数日前までは我々の侵攻には全く気づかれていないとアークガルドに送った仲間から連絡が来ていたにもかかわらず、今のアークガルド城は堅牢な要塞となっていた。


「私にもなぜか分からない。でもスレイン大国との戦争で多くの兵士がいないことは確かなことだ。主力が帰ってくるまでに滅ぼせばいいだろう」


「だがこうなった以上こちらも相当な戦力を失うことになる。その代償は払ってもらうぞ」


「心配するな。危なくなったらこちらも秘密兵器を出させてもらう」


 ゾルゲルはその言葉を聞いてニヤリと笑って答えた。


「ああ。あれか……、そうだなあれを出せばこの戦争は一瞬で終わるだろうな。私としては最初からあれで攻撃して欲しいんだが?」


「無理を言うな。あまり目立つことをすると後で厄介なことになるからな。我々としては、表立っての行動はできないんだ」


「あれか。他の星の正義を振りかざす連中に裁かれるという奴か?」


 ゾルゲルはふん、と言って仕方がないまずは我々の力で滅ぼしてみよう、と言って魔物達に戦いの準備に取り掛かるように命令した。




 ロマネスはアークガルド城の城壁の上で魔物の大群を眺めていた。アークガルド城の目の前にはデラウエア平原が広がっている。その平原の目に見える範囲が全て魔物の大群で埋め尽くされていた。グルタニア軍十万に対する我が軍は四万しかなく戦力差があるのは誰の目から見ても明らかだった。


 しかしロマネスは心静かに落ち着いていた。初めての戦争ということもあり如何なるかわからなかったが、自分でも感心するくらい心は穏やかだった。


 まもなく戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。

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