第4話 覚醒した力

 エミリアは自分を助けにきた少年を見ていた。自分と同じ歳に見える少年は肩から血を流して倒れている。エミリアは自分を助けに来たばっかりにこんな目に合わせてしまって申し訳なく思った。


 エミリアは少年の肩の傷を優しく触れてみた。おそらく銃弾は貫通しているようだった。エミリアは出血を止めようと自身の腕の布を破いて少年の傷口に布を巻きつけて止血した。そして恐る恐る少年の頭を自分の膝に置いて顔を優しく撫でた。


 ふと視界に人影が見えたので顔を上げると小さな少女が立っていた。エミリアが銀髪の可愛らしい少女に見惚れていると少女がエミリアに近づいてきた。


「貴方は誰?」


「私はパルタ。貴方の味方よ」


「パルタ?………パルタこの方のお名前は?」


「ジーク」


 パルタと名乗った少女が手を翳すと何もない空間から四角い箱が出てきた。パルタは自ら出した箱を指差してエミリアに言った。


「エミリアお願いがあるの、この箱を開けてもらえない?」


 エミリアはパルタに言われたとおり箱を開けると色々な薬が出てきた。どうやら箱は救急箱のようだった。するとパルタは塗薬のようなものを指差してジークの傷口に塗る様に指示した。エミリアはパルタに言われたとおり薬をジークの傷口に塗ると痛かったのか、ジークの顔が苦痛に歪んだ。エミリアは申し訳なく思い、ジークの顔を腕に抱き締めた。しばらくしてジークの意識が戻った。


「う……う…ここは? パルタか?」


 俺は顔に柔らかい感触を感じた。それはまるで母親に抱かれている時のような心地よい感触だった。俺はゆっくりと目を開けて顔に触れている柔らかいものに触れた。それは程よい弾力でマシュマロの様に柔らかく顔を近づけると凄くいい匂いがした。


「きゃ!」


 エミリアは顔を真っ赤にして手で胸を押さえた。俺は大きな膨らみの上からエミリアの顔が出てきたことでようやく自分がエミリアに膝枕されていたことに気が付いて慌てて飛び起きた。俺が心地良いと感じていたのはエミリアの胸だった。


「わ……悪い。わざとじゃ無いんだ。ゆ……許してくれ」


 俺がエミリアに謝るとエミリアはにっこりと笑って意識が戻ってよかった、と言って許してくれた。


 俺はホットした途端肩に激痛が走った。俺は傷口を手で押さえるとパルタに聞いた。


「あいつは……ショウは何処にいった?」


「もうこの船にはいないわ。ガンシップに戻ってあなたが死んだとみんなに報告してたわ」


「ク……クソ…、あのヤロー、絶対許さない……他の海賊達は?」


「船のコントロール室に行ったけどもうすぐここに来るわ」


「みんなは無事か?」


「ウロボロスの母船が来る前に脱出したから全員無事よ」


「そうか。よかった」


 その時船全体が少し揺れた。


「何?……どうしたの?」


「どうやらこの宇宙船が、海賊団の母船の中に入ったようね」


 それはもう二度とここから出られないことを意味していた。


「私たちもう終わりなのね」


 エミリアが絶望したように呟くとパルタがいいえ、ここから出る手段はあるわ、と言って俺に向かってゆっくりと話した。


「貴方の本来の力を解放する時がきたようね」


「俺の本来の力?」


「そうよ。ジークこの宇宙の膨大なエネルギーを感じなさい」


「宇宙のエネルギー?」


「目を閉じて、内なる力に目覚めるのです」


 パルタは俺の顔に手を近づけるとゆっくりと俺の目を手で覆い隠した。それと同時に扉が開いて海賊が三人部屋に入ってきた。


「ん? 人質は二名のはずじゃないのか?」


 海賊の一人が銃を持った男に問いただした。


「確かに二名だった筈なのに? おかしいな?」


「この際どうでもいいだろ人質が減るのは困るが、増えるのは問題ないだろ」


 もう一人がそう言うと、そうだなと言って三人とも納得して、こちらに近づいてきた。


「お前はこっちに来い!」


 海賊の一人がエミリアの腕を掴むと部屋の外に連れて行こうとしたが、エミリアが拒否すると今度はエミリアの髪の毛を掴んで引きずった。エミリアはあまりの痛さに泣き叫んだ。


「やめろ!! 手を離せ!!」


 俺はエミリアを助けようと男に向かって行ったが、拘束具により動きを封じられれてしまい、大きく体制を崩して倒れてしまった。


「一丁前にいきがりやがってこのガキが!! オラよ!!」


 海賊はそう言うと動けなくなった俺の顔面を力任せに蹴り上げた。


「ぐは!!………」


 俺の頭は取れそうなくらい揺れて視線も暫く定まらないほどぐらついた。口から大量の血がこれでもかと言うくらい出てきた。男は続けて俺の頭を踏みつけようと足を大きく上げた。次の瞬間男は壁に勢いよく叩きつけられた。


「全く、威勢がいいわりには情けないな」


 俺は声のする方を見た。そこにはゲキが立っていた。ゲキの一撃で吹っ飛んだ男は気を失ったのか立ち上がることはなかった。ゲキは続け様に他の二人も倒してしまった。


「全く世話の焼けるやつだな」 


 ゲキはそう言って俺の拘束具を外そうとしたが、ゲキの力でも拘束具はビクともしなかった。


「残念だったな鍵がなければ外すことはできないぜ!」


 俺たちは声のする方を向くといつの間にか、銃を持った海賊に周りを取り囲まれていた。


「おっと。それ以上動くなよ」


 海賊のリーダー格の男がゲキに向かって叫んだ。


「バカか? 俺にそんな豆鉄砲が当たるかよ」


「ああそうだな。お前には当たらんさ……でもそのガキは避けられるかな?」

 そういうと海賊達の持っている拳銃の銃口が一斉に俺に向いた。


「打てー!」


「やめろー!!」


 俺は死を覚悟した。小さくうずくまり目を閉じて祈ることしかできない自分を呪った。暫く銃声が鳴り響いたがなぜか痛みはなかった。変だと思いゆっくりと目を開けると自分を庇うようにゲキが立っていた。ゲキの体には無数の銃で撃たれた傷があり、床一面血の海になっていた。


「ゲキ? 如何して?」


 俺が見上げるとゲキの顔が優しく微笑んでいた。


「ちくしょう! やっちまったぜ」


「大丈夫か? ゲキ?」


「はぁ……はぁ……あ……当たり前だ………このくらいで俺様が死ぬかよ………

バカ野郎!」


「なぜ俺を庇った? ゲキなら交わすことができたのに……」


「お…お前が……お……幼くして亡くなった………俺の弟に似てんだよ………」


 ゲキはそう言うと口から大量の血を吐いて倒れた。


「ゲキー!!! パルタ!! ゲ……ゲキを助けてくれー!!!」


 パルタはゲキの傷の状態を確認したが、首を振って助からないと言った。


「そ……そんな……だめだゲキ死ぬなー!!!」


「い…いいんだ……ジーク……そんなことよりも……今まで辛くあたって悪かった……お前は…優しすぎた……だ……だから……こ……この仕事に向いてない……と思って……辞めさせたかった……許して……くれ」


「分かった………もう喋らなくていいから……」


 俺は倒れたゲキに手を差し伸べたかったが、拘束具によりそれが叶わなかった。


 ゲキは最後に俺の分まで生きろ、というと息を引き取った。


「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 雄叫びと共に俺の体が光のオーラに包まれた。


「なんだ!! 何が起こった?」


 海賊もエミリアも何が起こったのか分からなかったがパルタだけは俺を満足げに見て言った。


「力により虐げられた弱気者の盾となり、その身を持って弱者の生きる希望となりなさい。あなたの耳は虐げられた者の魂の叫びを聴くために、あなたの拳はこの宇宙に住む全人類の未来のためにあるのよ! 内なる力に目覚めた今こそ傍若無人な傀儡かいらいに正義の意思を示しなさい!!」


 パルタがそう言うと俺の周りに広がるオーラが一層眩しさを増していった。


 海賊の一人が眩い光に包まれた俺を直接見ないように手で光を遮るようにしていた。暫くして俺を取り巻く光が収まると次に黒い渦のようなものが俺の周りを包んでいた。


「なんだこいつは?……何かわからんがやばそうだ、う……撃て、打ちまくれ!!」


 海賊達は俺に向かって一斉に射撃したが、周りの黒い渦のような物質に阻まれて銃弾が届かない。


「だ……だめだ銃が効かない!!」


「大丈夫だアミノテウス合金の拘束具で動きを封じているから、奴は逃げることも、攻撃もできない。このまま母船に連れて行こう」


 俺は自身に繋がれた拘束具を外そうと力を込めた。


「無駄なことだ、宇宙一の硬度を誇るアミノテウス合金製だぞ、破壊することは不可能だ」


「はあああああああ!!!!!」


 俺が再び力を込めた時、拘束具にヒビが入った。


「何?……ヒ………ヒビが入っている?」


「はああああああああああああああああああああああああ!!」


 次の瞬間俺に取り付けられていた拘束具が全て弾け飛んだ。


「ヒ……ヒィィーー!」


 海賊達は情けない声を出すと、その場で腰を抜かす者も、逃げ出す者もいた。俺は部屋の出口に逃げ出そうとした者の前に瞬時に移動して攻撃すると吹き飛んで宇宙船の壁に胴体がめり込んでしまった。腰を抜かした者も俺の一撃により紙切れのように吹き飛んだ。


「パルタ、エミリアをストレイシープに連れて行ってやってくれ」


「あなたはどうするの?」


 パルタに聞かれて俺は表情ひとつ変えずに海賊団を殲滅する、と言って宇宙船の出口ハッチに向かって行った。

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