由緒間違いキャンサーγ 01
【ウースエフェメリダ紙 2805年12月18日の記事より抜粋】
記者『──ではギエン博士、人工的に人間を造ることは可能ということですか?』
ギエン氏『正確には、人間並みの知能を造ることだ。昨今のクローン生物技術の発展には私も尊敬して然るべきだが、私が言っているのは、あくまで機械とプログラムだけを用いた、人間の知能の完全なる再現についてだ』
記者『最近のコンピューターの発展は凄まじいものですからね。ギエン博士も携わっておられましたが、国のスーパーコンピューターの計算速度は世界一位になりました』
ギエン氏『あー、違う違う。どうやら勘違いをされているようだ』
記者『勘違いとは?』
ギエン氏『キミが言っているのは高性能で「完璧な」コンピューターの話だ。私が目指しているのは、「完全な」知能を造ることだよ』
記者『天才の貴方が言う完全な知能とは、一体どういうものなのですか?』
ギエン氏『「間違いを犯す」、ということさ』
【ストマ=マテーマ誌 2807年6月号のコラムより抜粋】
ロゴス博士(以下敬称略)『ギエン博士。貴方がキャンサー
ギエン博士(以下敬称略)『お気遣い痛み入ります』
ロゴス『気遣い? とんでもない! 貴方が造られたキャンサーβは、人工知能の極致へと辿り着かれた。あれを越える完璧なロボットなど、私は見たことがないよ』
ギエン『そう、完璧です。「彼女ら」は私の考えうる、完璧な結果を導きだせるロボットとして設計しました。まず、それは成功だと言えるでしょう』
ロゴス『まず、とは含みのある言われ方だが、キャンサー型にはまだ改良の余地があると?』
ギエン『何度となく言っておりますが、私の最終目標は完全なる知能を造ることです。そのためには、第一段階としてまず間違いのない人工知能を造る必要がありました。それがα、βの役割です』
ロゴス『貴方がよく言われる「間違いを犯す完全」というものか。では、早速それの開発に?』
ギエン『いえ、その前にワンクッション入れたいと思っています』
ロゴス『ワンクッションとは?』
ギエン『間違いを犯す人工知能。私自身では理解しているつもりなのですが、具体的にどんな行動を取るのか? それを一度形として検証しておきたいのです』
ロゴス『私は一科学者として楽しみにしていますよ。天才ヤーナ=ギエンが作り出す完全な人工知能が、果たしてどんなものかを』
ギエン『痛み入ります』
【オープスTV 2812年7月8日 ニュース番組アーカイブより抜粋】
記者『ギエン博士! メガロス科学部門最優秀賞の受賞おめでとうございます!』
ギエン博士『痛み入る』
記者『この度造られましたキャンサー
ギエン博士『大した変化はない。βの持つ機能の一つひとつを、アップデートしたまでのことだ』
記者『ギエン博士は「完全なる知能」をテーマに人工知能の開発をされているとのことでしたが、キャンサーδがそれに当たるのでしょうか?』
ギエン博士『δは単純にβを強化したものであり、完全とは言い難い。次機の発表はまだ先と考えていたのだが、ロゴス博士と政府に頼まれ……いやすまない、続けてくれ』
記者『キャンサーδの成果により、政府から研究費の大幅な増額と、大規模な研究施設を
ギエン博士『何も変わらない。私の目指すものは完全なる知能だ。今後もひたすらにそれを追求していくだけだよ』
助手らしき女性『博士、そろそろ……』
ギエン博士『すまないが施設の引越が済んでなくてね。ここまでにしよう』
記者『あ! 最後に一つだけ……今回作られたキャンサーシリーズの型番はδですが』
助手らしき女性『すいませんインタビューはここで……』
記者『キャンサー
ギエン博士『……確かにγと名を付けたものは存在する』
記者『なぜ公表されないのですか? βの次機ならば、βよりも高性能のはずでは……』
ギエン博士『「彼女」は元より、α、βとは違うアプローチによる試作機でね。それ故の思い入れはあるのだが……結果として、世間様に公表できる形には出来なかったのだ』
記者『失敗作、ということですか』
ギエン博士『その表現は少々心外だ。前向きに「永世試作機」、とでも表現しておこうか。では、また』
【ウースエフェメリダ紙 2821年1月7日の記事より抜粋】
『ギエン氏、キャンサー型の最新機
『δを遥かに上回る性能。ギエン氏は「まだ改良の余地あり」。』
【ストマ=マテーマ誌 2823年 ヤーナ=ギエン特別号より抜粋】
『天才の創る未来。キャンサー型の最終形態とは?』
【ウースエフェメリダ紙 2828年6月21日の記事より抜粋】
『ギエン氏、科学省長官に任命。』
『ギエン長官は─────』
『ギエン氏は────』
『キャンサー
『天才──』
【2830年8月15日 科学省長官執務室】
「ちょっ……長官! ギエンちょうかぁん!!」
「そんなに大きな声で話さなくとも聴こえる。どうしたのかね?」
「き……消えました!」
「消えた? チップを隙間にでも落としたのかね?」
「が……γが……キャンサーγが収容室から消えました!」
「………………」
「なにぃい!?」
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